Good Morning & Good Night

門田真青

Morning/1

Morning/1-1


 坂の上に、太陽が白く暴力的に輝いている。それにじりじりと照らされながら、ひとりの少女が自転車を立ち漕ぎで、ゆっくりとペダルを回しながらその坂を上っていっていた。

 セーラー服を纏った少女は、短いスカートからその白い腿を晒し、力強く漕いでゆく。

 少女は坂の上に着くと、両足を地面につき、深く項垂れた。ハンドルの間に短い黒髪の頭を垂らせ、荒く息をしている。そのうなじに、太陽は容赦なく照りつけ、じりじりと焦がしていった。うっすらと汗が浮かび、それが胸元へ流れる。

 少女は大きく息を吐くと、顔を上げ、手庇で太陽を見上げた。目を細め、そしておもむろにカゴの中のバッグを漁る。

 その赤い原色のキャップが映えるペットボトルを取り出し、蓋を回した。プシュッ、と小気味良い音がするとほぼ同時に、少女は口をつけ、天に掲げるようにペットボトルを逆さにして飲み干していく。

「ぷはあっ」

 半分ほど飲むと、豪快に口を放し、手の甲で口元を拭った。

「ふうっ」

 顔を天に向け、目を瞑る。その髪を、風が揺らしていく。髪がなびき、隠れていた耳が露わになる。その風に暫し晒されてから、少女は目を開け、前を向いた。

 眼下に、街が広がっている。自分が住む街。家が立ち並ぶ中、中央に川が流れ、公園の緑や球場が目立つ。その間を車が走り、ボンネットが朝陽に照らされて輝いている。

 少女は頷くと、地面を蹴り、再びペダルに足をかけた。自転車が、重力によりゆっくりと動き始める。からからと滑り出し、やがて勢いよく回っていく。

 少女は目を大きく見開き、坂を下っていった。

 風が真正面から吹きつけ、髪をたなびかせ、耳から音を奪っていく。服が張り付き、スカートが揺れる。眼下にあった風景が近づき、遠くに見えていた街中は視界から消えていく。視界の横を家々が通り過ぎていった。

「ひゃー」

 少女は嬉しくなって、ぎゅっと目を瞑った。風が通り抜けていく。

 目を開けると、自転車は既に坂の下にあって、勢いのまま惰性で滑っていく。

「あははっ」

 少女は笑って、髪を少しだけ手櫛で整えると、輝いた瞳を前に向け、そのままの勢いで漕ぎ出していった。

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