第12話 お弁当②

 屋上に着くとレジャーシートが引かれて西川さんが座って待っていた。

 

 「西川さん…あの…」


 「早く座って」


 あれ、なんか怒っている?

 俺は、西川さんの隣に座った。

 

 「これ」


 「あ、ありがとう」

 

 西川さんからお弁当を手渡され、早速弁当の箱を開けた。

 もしかしたら料理が下手なオチかと思ったが普通に色とりどりに綺麗で美味しそうなお弁当だった。


 「あー」


 「…あの、西川さん何してるの?」


 西川さんがいきなり目を瞑って口を開け止まっているのだ。

 

 「憲が付き合ったらまずはこれをしないといけない決まりがあるって言ってた。だから、早く。あー」


 憲の仕業だった。

 そして、俺は気づいた。

 屋上の扉から誰かが覗いている事に…。

 

 「(そんな決まりはないって言えばそれで済む話…だが…)」


 もし、今この機会を逃したら次に俺が西川さんにアーンが出来る日が来るのであろうか?

 俺は覚悟を決めた。

 お箸でタコさんウィンナーを掴み西川さんの口に…入れた。

 

 「これで決まりはおしまいでいい?」


 「もぐもぐ…。だめ。私もやらないと」

 

 そう言って卵焼きを箸で早く口を開けるように言ってきた。

 でも、その箸は。

 

 「(俺が今西川さんに使った箸なんだけど。これって間接キスって何を戸惑っているんだ俺。俺は彼女がいたんだぞ)」


 そう言って自分を落ち着かせたが、実は佐阿は今までキスをした事はなく、前の彼女とは手を繋いだのが最大の進展だった。


 「…私のお弁当食べれないの?」

 

 あまりにも口を開けない俺に対して西川さんは少し悲しそうな顔で聞いてきた。

 

 「そ、そんなことはないよ」


 「じゃあ、早くアーンしてよ」

 

 せまってくる卵焼き。ここで断ることは…。


 「あっ。箸出すの忘れてた」


 そう言って西川さんは箸をもう1セット出してきた。

 ホッとしたがちょっぴり、俺は後悔していた。

 そして、いつのまにか扉から覗いていた人は消えていたのに気付いていなかった。

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