8-3

事情を詳しく聞かせた。

とは言っても、半分は俺の推測に過ぎない。


奏美を助けるためには一億円が必要だということ。

自分の行動は常に見張られていること。

おそらく、警察に通報してもバレてしまうこと。

そして…


「助けるのは、俺自身が行かなければならないということです」


「とりあえず、知り合いに刑事が居るから、彼に僕から連絡してみよう」

「ありがとうございます」

「職員室に全教員を集めて、君から説明しなさい」

「分かりました」



帰った教員も一部学校に戻ってもらった。

俊先輩も、その一人だ。

物理的に戻れない教員や帰らなければならない教員は

リモートで参加してもらった。



「今から話すことは、重大かつトップシークレットな内容です」



その場にいる全員が、息を呑む。



「僕の妹、冴島奏美が、誘拐されました」



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



んん…?

暗くて、冷たい匂いがする。

だんだん暗闇に目が慣れて

周りがぼんやり見えてきた。



「起きた?」

「えっ…?」

「おはよう」



恐ろしいほど笑顔で見つめてくる知らない男。

身体をジタバタさせるが、手も足も拘束されている。

どうして口を塞いでいないのか不思議だった。



「誰なの」

「ははっ、知ってるはずなんだけどな〜?」

「知らない、アンタなんか」

「えー、それは残念」

「何なのこれ、早く帰してよ」

「無理だね、ボク達はこれから一緒に暮らすんだ」

「は?」

「ゆっくり、じっくり、ボクが奏美を洗脳してあげるから…」

「はあ?なにそれ…」

「痛いことはなーんにもしないよ?むしろ気持ちよくしてあげる…」

「やだ…来ないでっ、いやっ…!」



ビリビリっと、全身にすごいものが流れて、意識を手放した。



「フフフ、まずは成長した奏美をたくさん見てあげないとね〜?」



┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「皆さんの力を、貸してください…!」



人生でいちばん力強く、頭を下げたと思う。

とにかく必死だった。

今ごろ奏美が、酷い目に遭ってるんじゃないかと思うと

こんなに苦しいことは無い。


俺は守ってやれなかった。

この学校に異動までしたのに、防げなかった。

最低だ。最低だよ、ほんとに。


だからもう、みんなを頼るしかない。



「何か策を練らないとね」



全員が俯く中で、口火を切ったのは俊先輩だった。



「校長、警察の方はいついらっしゃいます?」

「そろそろだ、帰った教員が戻るふりをして来るそうだ」

「じゃあ、皆さん気合い入れないとね!」


「そうですね」

「冴島さんは、学校の期待の星だもの」

「生徒が誘拐された以上、出来ることはしないと」

「冴島先生、絶対救いましょう」


「…はい!」



俊先輩は、やっぱり何が起きても、河野俊だった。

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