7-9

「…奏美?」

「ん?…将にい?」

「奏美も休みに来たの?」

「あ、うん、まあ」



噂をすればって感じだ。噂はしてないけど。



「日陰んとこ座ろう?」

「…うん」



誰にも見られてないかしら。

必要以上に警戒してしまって、将にいと二メートルは距離をとる。



「大丈夫だよ、ここならどこからも見えないから」



私の胸中を察したように、ぽんぽんとそこを叩いて促す。

久しぶりに、将にいの隣に座った。



「……」

「……」



会話という会話は、しばらく無かった。

何を話し出したら良いのか、分からなくて。

言いたいことや聞きたいことは山ほどあるのに、

全く口が動かなくなってしまった。


不意に、右手を握られる。

びっくりして見ると、あっという間に指を解され

将にいの指と絡められていた。

何を考えているのか、思わず将にいの方を向く。



「リベンジしてもいい?」

「え?」



私が将にいの顔を見たのに気がついて、

優しい眼差しで視線を捕まえられる。



「リベンジって、何の…?」

「…いろいろ、かな?」



また、見たことない将にいだ。

夢を見てるかのようなふわふわ感と

何とも言えない色気を同時に放っている。

ダメだ、もう心臓が持たない。



「ごめんね、奏美」

「なに、が…?」

「こんな兄貴を許して…」

「っ…?」



反射的に目を瞑ってしまう。

手を繋いだまま、柔らかい温もりが私を溶かしていく。

ときどき聞こえる小さい水音が、それを加速させる。



「ふぁ…んん」



出したことない声が、勝手に出てしまう。

喉の奥を閉めても、

いつの間にか移動した将にいの右手が

首元ですれすれを撫でるから

ゾクゾクっとしてすぐに緩められる。


長い長いキスは、どちらからともなく終わった。

屋上の扉の向こうから、声が聞こえてきたからだった。

でも今度は、逃げなかった。私も、将にいも。

そのまま手を繋いで、呼吸の音さえ消した。


結局来客は扉を開けず、声も遠ざかっていった。



「……」

「……将に、っ」



再び始められる口付け。

初めはさっきと同じような感じだったのに、

今度はだんだん激しくなっていく。

意思の疎通をとってるわけでもないのに、

お互い分かったように求め合う。



「はあ、んっ」



将にいの声も漏れる。

それが余計に心拍数を跳ね上げる。


私、どうなっちゃうの…?

もう何も考えられなくなってきたそのとき、

突然着信音が鳴り響く。



「「えっ…」」

「…呼び出しだ、終礼かな」

「あ、ちょっ」



そんな名残惜しそうに見られたら、戻れなくなるよ。


奏美のおでこに、チュッと口付けて扉の方へ走った。

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