7-7

「「…あ」」


「え、ええ?」

「将にい…あんま見ないで…」

「いや、あ、ええ?」



右隣から歩いてきたのは、同様にコスプレした将にいだった。


さっき聞いたのは…


『ひとつ言い忘れてたんだけど…』

『うん…』

『…BL漫画のカップルコスプレで、相手は冴島先生なの』

『ええっ!?』


ということだった。



「代役来たから予定通りやりますって言われたんだけど…」

「まさか私とは思わなかったよね」

「ほんとだよ…」



あとでこの漫画について調べてみた。

私が扮した主人公は

身体は女性で心は男性、恋愛対象は定まっていないという

トランスジェンダーの高校生。

将にいが扮したのは、彼が通う高校の教師で

ゲイであることを隠しながら禁断の恋に足を踏み入れていく──



「…っていうストーリーなのね」

「そうそう、そうなの」



だから女子の代役にこだわっていたのか。納得。

ていうか、将にいコスプレするくらいだから、

結構私と棲んでる沼同じなのでは…?(滲み出るオタク感)



「面白そう、読んでみよ」

「奏美もこういうの好きなの?」

「こういうのって?」

「ラブコメっていうか、恋愛もの?あんま読まないイメージだった」

「そうかな、結構好きだよ」



異性愛者間での恋愛模様を描く作品がラブコメで、

それ以外は別のカテゴリに入れる輩がよくいるから

私としてはそういう風に言ってくれて安心した。

将にいも同じ価値観を持っているようだったから。


っていう会話は、コスプレ大会が終わってから

随分経った後のものだけど。



「ポージングとか決まってるの?」

「一応こういう…」



垂れ幕が上がる前に、椅子が出されて

急いでその体勢になる。

やば…久々こんなに顔近い。

目を見てしまうと発狂しそうなので、綺麗な鼻を見つめる。



「奏美」



司会が私たちの紹介を始める。

と同時に、耳元で将にいが囁く。



「な、なに」



ここのところ会話をしていなかったからか、

一気に身体が強ばるのが分かった。



「このポーズ、漫画の表紙のビジュアルなんだけどね」

「う、うん」

「本編だと…」



何よ。勿体ぶらないで早く言ってよ。



「ふふ」

「なに、早く言って…!?」



さっきよりも顔が近くなる。

先週のことを思い出して、顔が熱い。



「本編だと、このままファーストキスをするんだよ」

「!?!?」



「それでは登場です!どうぞ!」



私たち以外、誰もいなくなったステージ。

垂れ幕が上がった瞬間、おでこから唇が離れた。



「「きゃー!!」」

「やばい!!」

「再現度がえぐい〜!!!」



観客の黄色い悲鳴が響き渡る。

将にいはこちらを見たまま、さっきと変わらぬ微笑みを向けてくる。

私自身はどんな顔をしていたか、コントロールも効かなかった。

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