5-9
ぶおーーー、、、
無機質な高音が脱衣所に鳴り響く。
熱風が私の髪をかき分けて、地肌に跳ね返った。
「はあ…」
なんでいつも通りに出来ないんだろう。
何も変わってないのに。
「…いや、変わったのかな」
将にいが私の通う高校に来て、
担任の先生になって、
前代未聞な学校生活が始まって、
仕事してる将にいを目の当たりにしているうちに
いつの間にか好きになってて…。
変わりまくりだ。全然違う。
なにより、兄を好きになってしまうなんて、どうかしている。
「どうして将にいなの…」
これが普通にクラスメートなら。
もし、佳月だったら、誰も傷つけずに済んだのに。
ガラッ
「へっ!?」
「あ、ごめん」
「え、あ、いや…」
お風呂に入りに来たんだろうけど…
「なにその格好…(ごちそうさまです))))」
「先に脱いどこうと思って」
「なんで先に脱ぐ…」
「いや、今ドレッシング跳ねてたの気付いてさ」
「えっ!ちょっと!!」
ドライヤーを置いて洗面台を譲る。
「洗剤つけて軽く叩いてね」
「りょーかーい」
そのまま脱衣所を出た。
「はあ…焦った…」
鎖骨で秒殺の私に上裸はハードすぎた…。
破壊力がやばすぎて死にそう。語彙力も無くなる。
私、これから生きていけるの…?
┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉
やっぱり、変わった。
明らかに俺を避け始めている。
ちょっと前まで、服着ないで家の中歩いてるなんて
大して気にもしていなかった奏美が
あれだけ思い切り反応するって…?
まさか。そのまさか?
だとしたら、俺と奏美は…。
いやいやいやいや。
あるわけが無い。有り得ない。
だって俺は、この十数年間
奏美にお兄ちゃんとして接している。
実の兄をそんなふうに、
現実的な奏美がそんなこと、あるわけない。
冷めやらぬ動悸を何とか抑えて
俺はお風呂場に入る。
熱めの雨を浴びて、髪をかきあげる。
ぼんやりと、鏡に自分の顔が見えた。
…似てないよな。
そりゃ似てない兄妹だって居るさ。
似てなきゃ血の繋がりが無いかって、そうじゃない。
奏美は現にお母さん似で、俺は父さん似だ。
そんなの、気にすることじゃない。
ずっとそうしてきたんだから。
それなのに俺は、やっちまったよなあ。
余計に苦しくなるだけなのに。
学校での奏美を思い出すだけで、
なんとも言えない嫉妬に駆られてしまう。
「キスなんて、しなきゃよかったな」
ため息に近い笑いは、ここですら響かないほど乾いていた。
┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉
「うーん…」
洗面台の鏡で、色んな角度に顔を傾けて見る。
「…似てない」
どう考えても、私と将にいは似てない。
少女漫画あるある、実は血が繋がってなかった。
っていう展開がこのあと起こるかもしれない。
なんて、くだらない妄想ばかりして
ふと我に返ったとき、恥ずかしくて堪らなくなる。
「でも似てないよなぁ…」
鼻の形なんて全然違う。
将にいはシュッと細く綺麗に通っているのに、
私は全然丸い鼻だ。
ああ、これどうにかしたい。
将にいと並んでも恥ずかしくないルックスが欲しい。
いちばん今ほしいものは、それかもしれない。
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