5-8

「将にい〜そろそろお風呂に……あ」



ソファに首が折れるほど、もたれて寝ていた。

そこまで頭を後ろにやっても

口が開かないのがすごいと思った。



「将にい、お風呂は入んないと」

「んーん…」



はあかわいい。どうしようもなくかわいい。

やはりこの可愛さを前にしたら絶対服従。



「上に乗っちゃうぞ〜」

「ん…いいよ…」

「え、いいの?」



顎をコクンコクンと縦に振る将にい。

いや…さすがに乗るのは…。

小さい頃は平気でドーンって乗ったりしたもんだけど

体重だって軽くないし…。



「将にいっ、おーきーて!」

「んん…」

「ふぇっ!?」



手探りとは思えぬほど正確に私の肩を掴む。

ぐいっと引き寄せられると、そのまま胸の中へ。



「!?!?」

「ふふ…いい匂ーい」

「ちょ、将にい…?」



これは完全に寝ぼけている…。

私を何と勘違いして、、、はっ、まさか。



「……み…」

「え?なんて??」

「…なみ……」

「ナミ!?」



え?ナミ??

ナミって誰!?

まさかホントに……彼女!?!?



「…好き、なの?」

「んー?…うん……」

「まじか……」


「ん…、奏美…?」

「あ、起きた?」

「あれ、なんだこれ…」



ソファの上で私を抱えた状態。

顔だって至近距離…。



「あっ!ご、ごめん!!」

「いや、大丈夫…」

「痛いとこない??」

「将にいこそ、重くなかった?」

「全然、むしろ軽すぎ」

「それは無い!」


「そういや、めっちゃ夢見てたな今…」

「夢?」



それってさっき、名前呼んでたやつ…?



「奏美がまだちっちゃいときの夢」

「やっぱり〜……え?」

「え?」



私?私の夢見てたの??



「奏美ってちっちゃいときはまだヤンチャでさ、三輪車で走り出すと止まんないんだよな〜」

「そう、だったの?」

「奏美はさすがに覚えてないか…、俺はもう中学生だったからよく覚えてるよ」



そっか。ナミって、奏美の「ナミ」だったのね。

とんだ早とちりを…。恥ずかしい。



「奏美?どした?」

「ええっ?あっ、いや別にっ?」

「そう…あ、髪まだ湿ってるよ?」

「あ、うん、ドライヤー暑くてまだなんだ」

「なんなら…」



タオルを被った頭をクイっと引き寄せ、柔らかそうな唇が囁く。



「俺が乾かしてあげよっか?」

「…っ!?」



たぶん、将にいに悪気も下心も無い。

むしろあるのは私の方だ。

にやっと意地悪く微笑む将にいが、10センチ目の前に居る。



「…ん?どした?」

「いや、その…」

「ごめん、びっくりしすぎて固まった?」



冗談だよ冗談。そう言って笑い飛ばすあなたに

髪、乾かして?ってねだったら、一体どんな顔をするんだろう。

見たくて見たくて堪らなくなった。けど。



「髪、乾かしてくる」

「お、おう…」



また、ぶっきらぼうな態度を取っちゃった。

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