5-7

「ああもう!!」



ドアの向こうで、ガタンと大きな音がした。

どうしたんだ?何かあったのか!?


走ってきた勢いそのまま、玄関を突き破った。



「奏美!!!?」


「…あ、将にい」

「どうした?大丈夫?」

「将にい…」

「奏美…?」



ふらふらっと立ち上がったと思ったら、

そのまま俺の肩へポスンと頭を落とす。


突然の展開に心拍数が跳ね上がる。

本当に、何があったんだよ…。



「もう帰ってこないかと思った」

「あ、連絡してなかったよね…」



小さい頃に戻ったみたいに、顔を見せないで拗ねている。



「早く帰りたくて、めっちゃ走ってたら忘れてた…、ごめん」

「走ってたの?」

「う、うん」



むくっとこちらを向いた奏美の目は

想像以上に潤んでいた。

あまり見せないこの表情に、いつもドキッとする。



「でも…電車乗ったらLINEくらいできるじゃん」

「ほんとにごめん…」



心配してたのか、連絡しなかったことに怒っているのか。

色んな感情で拗ねたり怒ったり

くるくる変わるのが、異常にかわいい。


ていうか最近、いつもの奏美と違う。

なんだか急に…。



「唐揚げ、まだ出来てないから…」

「失敗したの食べたの?」

「え、なんで分かったの」

「うーん奏美ならそうかなーって思って」

「…今から残り揚げるね」

「じゃあ、一緒にやろ」

「将にいヤケドするからやめといたほうがいいよ」

「なんだよそれ〜」

「はいっ、手洗ってきてくださーい」



はあー危なかった〜。

もう少しでやらかすとこだった…。



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



あの日みたいにまた、ぎゅってして欲しかったな…。

そんなふうに将にいの優しさも素直に受け入れられないなんて、

私変わっちゃったな。


ていうか、あんな態度取って

まさかバレたりしてないかな…?



「いただきまーす!!」



少年のように唐揚げを頬張る将にい。



「そんなに口に入れなくても…誰も取らないよ」

「だって美味しいんだもん」

「一口目からそれじゃん」

「食べる前から美味しいって分かってるからね」

「それ地味にプレッシャー、、」



ああ、かわいい。

ご飯を食べてる時と寝てる時がもうとんでもなくかわいい。

誰だ、こんなかわいい生き物産んだのは。


誰ってまあ…写真のお母さんなんだけどね。

お母さんは、なんとなく私と似ている。

将にいの面影はあまり無い。

実際、将にいはお父さん似だと思う。

何度かテレビ電話をした事がある気がするけど、

そのとき少し驚いたのは、よく覚えている。

お父さんの顔は、ちっとも覚えていないけど。


そういえば、将にいも話してくれてないな。

あのとき教室で、何を話したかったのかな。



「奏美?」

「…えっ?」

「大丈夫?さっきからボーッとしてるけど」

「え、あ、全然大丈夫!」

「そう…、具合悪くなったら無理すんなよ」

「うん、ありがとう」



誰かさんのせいでモヤモヤしてるっていうのに…。

それでもなお憎めないのは、将にいだからだろうと思った。

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