5-6

それにしても、本当に不思議だ。

どうしたら家族である将にいに恋をしてしまうのか。


少女マンガとか恋愛ドラマとか、

お兄ちゃんや妹と恋をする系の話はよく見る。

それが現実にあるとしたら

何か事情があるが故に抱いた恋心なんだろう。

そんなふうに思った。


兄妹だと思っていたら本当は血の繋がりは無かったとか、

逆に他人だと思っていたら実は姉弟だったとか…。


そうして大体はハッピーエンドを迎える。

でもそれは、作り話だからだ。そうに決まってる。



「はあ…」



恋に、「好き」に、理由なんて無いと言うけれど

じゃあどうしてこうなってしまったのだろう。


ずっと兄だったはずなのに。

一緒に暮らしているのが普通なのに。


ただ働く将にいが格好良かっただけじゃない。

いままで当たり前のように傍にいた将にいが

急に遠くへ行ってしまったような感じがして、

格好良い将にいが他の子と楽しそうにしているのを見て

なんだか胸がズキズキしてきて…。


私は、もしかして、いや、もしかしなくても……



「異常なのでは…?」



目の前で火が倍の大きさになる。



「うわあっ!!?」



あーもう、集中しないと。

家中の鶏肉を焦がしてしまう。


ヴーッ ヴーッ

スマホが着信を告げる。

スピーカーフォンにして電話に出た。



「もしもーし」

「もしもしっ」

「終わったー?」

「いや、むしろ逆っ」

「ぎゃく?」

「急に帰れなくなっちゃった」

「ええ?」

「入試広報でちょっと…」

「ああー」



もう入試広報の方で仕事があるのか。

それだけ優秀ということか、それともただのパシリか。

どちらにせよ、帰りは遅い。



「その音…もう唐揚げ作ってる?」

「うん、今日も定時だって言ってたから…」

「ごめん!ほんっとにごめん!!」

「ううん、いいの!残りは一旦揚げないでおくから」

「先に夕飯食べてて!じゃあ!」

「うん!頑張っ」ツー ツー



「切れた…」



よほど焦っていたのかな。

あーでも逆に良かった〜。

この調子で揚げていたら

本当に焦げた唐揚げの山になってたかも。



「とりあえず、お風呂入るか」



火を止めて、菜箸を置いた。

私の夕飯は、失敗した唐揚げ達になりそうだ。



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「いただきます」



昨日と同じ家とは思えぬ、寂しい夕食。

慣れっ子のはずなのに、ものすごく虚しい。

最近はもう、将にい帰ってこないんじゃないかとか

このまま会えなくなるんじゃないかとか

有り得そうも無いことばかり思いついて、勝手に悲しくなる。



「…もう九時か」



将にいはまだ帰ってこない。

帰るよ、の連絡も無い。



「洗濯干さなきゃ…」



ぼーっとしてると勉強する時間が無くなる。


あ、将にいの分の唐揚げやんないと。

明日の帰りに買うもの書き出して、トイレの掃除して…。



「ああもう!!」



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