5-5

今日の会議は、本格的に文化祭準備に入るためのオリエンテーリング。

生徒会に提出しなければならないものや、

クラスTシャツを着るための異装届、各資料と注意事項など

一気に色んなものが配られる。



「ふわ〜訳分かんなくなる」

「パッと見じゃどれも同じ紙だしね」

「奏美、これよく去年一人でやってたな…」

「まあ、やらなきゃいけなくなるとやれるもんよ」

「勉強になります、先輩」

「なにそれ笑」



教室の端の方に、変わらず将にいは居る。

変わらず、と言うのも、そこに居るだけで何かする訳じゃない。

でも私にとっては、それだけで十分だった。

ああ、将にいが言っていたのはこういうことかぁ。

ようやく気がついた頃には、もう遅い。


ちょうど西日がいい感じで将にいの顔を照らす。

私の他に、どれだけの人があの表情に心を奪われるだろう。

少なくともこの教室内に、五人は居る。…知らないけど。

そう思うだけで、すごく嫌な感じがした。

だけど逆に、それまで他の所でそう誰かに思われているよりずっと

私の居る所で良かったと思う。

だって私の知らないところで、こんなの…。


ああもう、どれもこれも、ぜんぶ将にいのせいだ。

どう責任取ってくれるんだろうか。


ただ今は、モテモテモンスターの将にいが

私の兄であるということ。暮らしを共にしているということ。

そんな将にいを、改めて好きになってしまったということ。

それだけが、目の前にある事実だ。



「来週の月曜日から五日間、クラス展示準備になりますので、宜しくお願いします」

「では終わりまーす」

『『『ありがとうございました』』』




「こんなに文化祭がダルいの、初めてかも」

「運動部は大体ひたすら楽しむだけだからね〜」

「でも、五日も準備期間くれるって凄いよね」

「私立だからじゃん?知らんけど」


「じゃ、部活がんばってねー!」

「おう!じゃあな」

「ばいばーい」



さあ、今日の夜ご飯はどうしよう。

一週間の終わりは、いつも少しだけレベルアップした夜ご飯にする。


『将にい、何食べたい?』


土曜の放課後、決まってこのLINE。

できるだけ将にいの食べたいものにしたい。

明日はちゃんと休めると言っていたし、

お酒のおつまみになるものもいいかもしれない。


わくわくしながら、スーパーのカゴをカシャンと取る。

土曜日ほど、楽しい帰り道は無い。



ピコん。

あ、将にいから返事だ。

どれどれ…?



『唐揚げ食べたい!!』


「唐揚げね…、ふふ、了解っと」



テストだったのでお昼帰りだった今日は、時間に余裕がある。

ちょっと気合い入れて、久しぶりに揚げてみようかな。

お、ちょうど美味しそうな鶏肉があるじゃん!

将にいはお醤油より塩派なので、少し奮発して塩麹も購入。


あのキラキラした顔を思い出しながら、

自動ドアをくぐった。

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