4-9

今日一日、佳月とのことを無かったことにしようとしていた。

そんなのは無理なんだけど、どうにかそうならないかと思っていた。


ゲームをしていても、洗い物をしていても

お風呂に入っていても、頭から離れることは無い。

あの真剣な眼差しや、耳元で響いた低い声。

焼き付いて消えない。


でも…、その下には確実に、将にいがいる。

そっちはもっと、心地よくて、もう少し欲しいとさえ感じている。


きちんと、向き合わなければならない。

だから、佳月とは付き合えない。

あんなこと言っておいて、本当に伝えにくいけど

でも、はっきり言わなければならない。


友達を続けられなくなるのは嫌だ。

だけど、もうこうなってしまった以上、覚悟はしなきゃいけない。


そして何より、こんな私を好きになってくれて

それを真っ直ぐ伝えてくれて、ありがとうと言いたい。

だってあんな風に言われたのは

誰でもない、佳月が初めての人だから。



「もうそろそろ六時だ…」



薄皮を剥いた玉ねぎを一つ、まな板の上に置いて

目の前にスマートフォンを立て掛けて準備した。


そして、きっちり六時。



「…えっ?」



画面にはビデオ通話の文字。

嘘でしょ?普通に電話だと思ってた。


まあ何とでも誤魔化せるか。

そのまま電話に応じた。



「あっ!もしもーし!」

「奏美〜っ!!!」


「もしもーし」



小さな画面の中に、いつもの三人が映る。



「え?料理してるの!?体調は!?!?」

「ああ、午前中で結構良くなったから…」

「え、親は?」

「えっ…し、仕事だよ普通に」

「ふうん」


佳月だけ、異様な雰囲気を纏っていることが、画面越しでも伝わる。


「で、何作ってるのー?」

「あー、とりあえず切り始めたんだよね〜何にしようかな〜あはは」


さすがに病み上がりでオムライスは重いから、テキトーに受け流す。


「じゃあ、オニオンスープがいいね!」

「そうだね、晴香好きだよね、オニオンスープ」

「うん、大好き、うちのシェフ天才だから」

「「「ははは…」」」



それから、今日やった事だの来週の連絡だの、色々教えてもらった。



「もう一時間も喋っちゃったね〜」

「俺そろそろ夕飯できるかも」

「私ももうすぐ呼ばれるかな」

「そういえば三人とも、どこにいるの?」

「「佳月の家」」

「じゃあさすがに帰らないとじゃない?」

「だよねー」

「帰るか」



そのとき…。



「ただいまーっ!」

「えっ!?」

「「ん?」」

「……」


「あ、ごめん、親が帰ってきたー切るねっ」

「えっあっちょっ奏m」タラん。



「はあ〜焦った〜…」

「ただいまっ」

「あっ、お、おかえり」

「電話してたの?」

「え、ああうん、リモートお見舞いって三人が」

「ごめん、声入っちゃったかな…」

「分かんないけど、びっくりした…」

「ごめん……あっ、今日オムライスだよね!手洗ってくる!」

「ちょっと…」




さっきの全力ただいま声が聞こえてたら…

将にいの声だってバレちゃったら……。


とりあえずさ、、



「帰ってくるの早すぎぃ…」

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