4-6

ピコん。

ん?将にいからだ。



『田宮と三本からお見舞いに行っていいか相談された』

『でも家の場所教えてないって言ってた気がしたから、何となく流しといた』


「ほお〜…佳月がお見舞い……」



たぶん智也に誘われたんだろうなあ。

そのまま帰るふりをしてテキトーに智也を振り切って、戻って襲われる

なんていう顛末を想像してしまって、顔が引きつった。

まさか、佳月はそんなことしない。


まあ将にいが何となく阻止してくれたみたいだから、とりあえず安心かな。



それにしても、いつそんなことを聞かれたんだろう。

今日は英語の授業無いし、聞くとしたら朝のHR後だよね。

じゃあ、この空いた一時間は何なんだろう。

やんわり阻止に手間取ったとか?

そんなの、鋭い佳月に隙を与えただけじゃない!

バレちゃうよ、ていうかバレちゃったかな…?


嫌だなあ。佳月に秘密を全部握られたみたいで、嫌だ。



「ゲームしちゃお」



何もかも嫌になって、しばらく作り物の世界に浸ることにした。



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「んーああ〜」



だいぶ進んだなあ…。え、もう三時間?

ちょうど十二時になる頃だ。集中しててお腹も空いた。



「何食べよっかな〜」



久々のズル休み。どうしてこう楽しいんだろう。

やっぱりことは、たまにすると楽しい。

毎回はさすがに、ただの中毒だと思うけど…。


適当に余っていた貰い物の素麺を茹でて、

安くて美味しそうだったから久々に買えたトマトをカットして、

隣のおばさんがくれたオクラも刻んで、

ひと足どころか、みつ足くらい早い夏メニューをサッと作った。

ちょうどいい試食会だ。美味しかったら、暑くなってきたとき作ってあげよう。



ずるずるっ。

「……ん〜、イける」



我ながら良い出来に唸ってしまった。

薬味はミョウガか大葉…シンプルに葱でもいい。

あれこれメニューを組み立てては味を想像して、

『美味いっ』と目を輝かせる将にいを思い浮かべていた。


ハッと我に返る。何ニヤニヤしてるのよ!



「早く食べて、部屋の掃除でもしよう…」



自分の妄想に口元を緩めてしまう。

逆を言えば、そのための妄想ではあるんだけど。


もちろん家族だから、家族が喜ぶだろうなあとか気に入るかなあとか

そういう風に考えを巡らせることは当然だ。

…でも、なんかそういうのとは違うんだよなあ。

どんな言葉で言い表せるだろうか。


好きなアイドルとか好きな芸能人を見てるのとはまた違っていて、

動物だとか小さい子供を眺めているのとも違っていて…。

カンタンに言ってしまえば、どれも『かわいい』ということなんだけど、でも何か違う。


やっぱり、とある彼が言うように、答えは一つしか無いんだろうか…。

だとすれば、私は立派にことを毎日しでかしている。


せっかく美味しく出来た新メニューの素麺が伸びてしまった頃、

とうとう私は逃げ道の選択を迫られていた。

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