4-5

時計を見て愕然とした。



「え…九時……?」



昨日の夜は、将にいを待ってる間にソファで寝ちゃって…。

それから、えーっと、将にいが帰ってきて……ん?

何となくその辺は覚えてるけど、他は曖昧だったり断片的だったり。

つまり、ほぼ覚えてない。


食卓の真ん中に、綺麗な字でメモが残されていた。



──おはよう。ちゃんと眠れた?今日は欠席にしておくから、ゆっくり休んでね。なるべく早く帰ります。将太──



ああ今日はサボっちゃったんだ…。

罪悪感の裏で、少しホッとした自分が居る。

最低だ。利用しようとしておきながら、ちゃんと向き合わないなんて。


佳月も学校を休んでいることを祈りながら、

私は朝食の準備をしていた。




┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉




「なんだよ、佳月が来たと思ったら奏美が休みじゃん…」

「まさか、佳月が奏美に移したとか…!?」

「な訳ねーだろ、会ってないんだから」

「あっ、そうだよね」

「かなみぃ〜」

「ほんっとに智也は奏美中毒だよな」

「佳月みたいにコソコソしているよりいいだろっ」

「コソコソなんてしてませーん」

「してるじゃん」

「いやしてないよ」

「え?」

「え?」



担任は、体調不良だと言っていた。

まだ夜は冷える日もあるから十分気をつけて欲しい、

って言ってたけど、たぶん奏美もそういうことじゃない。

俺が意地張って、変なこと言ったからだ…。



「なあ佳月、俺きょう部活ないんだよね」

「へえ…、で?」

「奏美のお見舞い行かね?」

「一人で行きたいんじゃないの?」

「こ、こういうのは、フェアにやろうぜ」

「なんだよそれ笑」

「どうなんだよ、行く?行かない?」

「俺は……」



チラチラとこちらを気にしている先生が視界に入る。



「奏美の体調不良の具合により、かな」

「え?…あ、ちょっと」



慌てて視線を逸らした先生に近づく。



「冴島先生」

「っ、どうした?」

「奏美、どれくらい具合悪いんですか」

「えっ」

「聞いてませんか」

「えーと…」



思い出すように宙を見上げてから、言った。



「食あたり…」

「「え?」」

「しょ、食あたりだって聞いてる」

「食あたり…要はお腹壊したってこと?」

「そういうことだと思う」

「じゃあ…

お見舞い、行っても大丈夫ですかね?」


「え?お見舞い?」



あー戸惑ってる。

案外この人分かりやすいな。



「まあ、行っても大丈夫なんじゃないか?」


突然、何か自信を取り戻したように顔を上げた。


「あ…そうですか」

「やった!じゃあ行こう佳月!」

「いやでも…」



今の今まで忘れていた。

俺も智也も、たぶん芦野も、奏美の家を知らない。

最寄り駅は知ってるんだけど、そこから先を教えてもらった記憶が無い。

いつもいつも『来てもらっても上げられない』って言って、やんわり拒否られていた気がする。



「じゃあ」



もう話す気はないというような背中を向けて、

颯爽と教室を出て行かれてしまった。

ちっ。やられた。

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