4-4

「ただいま〜…」



そっと玄関を閉め、リビングへ足音を殺して向かう。

ドアを開けると、分厚い本が落ちそうになりながら、ソファで眠る奏美の手の中に居た。

今日はとりわけ、疲れているはずだ。


静かにタオルケットを掛けて、リビングの灯りを落とす。



「寝顔は小さい時のまんまなんだよなあ」



そうは言いつつ

長いまつ毛が、小さく閉じられた唇が、

俺の理性の壁をチクチクっと刺す。

親みたいな感覚と、このチクチクした感覚とが混ざりあって

毎日この壁は壊れそうなのを堪えている。


この壁の向こう側を、見てみたいような、見たくないような。

壊し方を間違えてしまうと、もう絶対に見られなくなってしまう。

それが怖くて、そうなるとしか思えなくて、俺は深呼吸をする。



「ん、んん…」

「あっ」



あからさまに急いで、ソファから離れる。



「んぁ…将にい…?」

「あ、た、ただいまー」

「お疲れ様…、夜ご飯……」

「ああ、いいよ、寝てな」

「でも、どっちみち起きないと……フラ」

「あっちょっと!」



睡魔に勝てず倒れそうになる奏美を抱き留めた。

よっぽど眠いんだな…。

有り得ないくらい潤んだとろんとした目をこちらに向けている。

見るな…お願いだから……。



「布団行こ!な!」

「うん…」



許してくれと唱えながら、奏美の手を握った。



「明日休む?」

「ん…それじゃあサボりになっちゃう…」

「無理して行くなら、ちゃんと休んだ方がいいよ?」

「…それ教師が言っていいの…?」

「これはサボりじゃないから」

「でも…」

「休んでも奏美なら大丈夫でしょ?」

「なにそれ…」


明日の時間割なんだったかな。

全然思い出せないけど、とにかく休んだ方がいい。


「ん〜」

「ね?ちゃんと土日休んだ方がいいよ、中間まで余裕あるうちに」



個人的にも俺は、奏美を学校に行かせたくなかった。

教師としては有るまじき行動だが、今は教師のお面を外した冴島将太として、奏美を行かせたくない。



「…考えとく」



ポソりと呟いて、そのままクテんと眠りに落ちた奏美の手は、まだ俺と繋いだままだった。



「はあ…なんでだよもうっ」



スヤスヤ眠る奏美の顔を見ていたら、

やり場のない感情で堪らなくなってしまった。


…いっそ、先に奪ってしまえばいい。

何度そう思ったことか。

俺以外の誰も触れられないようにしてしまえば、こんなに辛くはなかった。

出来ないことは無かったけど、俺はやらなかった。


奏美が本当に好きな人と生きていくと決心するまで、

俺は奏美の兄でいなければならない。


そのはずだった。でも、もう……。



「奏美、ごめん…」



桃色の頬に、小さくキスを落とした。








┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉

作者です🙋(ムードぶっ壊してすみません💦‬)

今更ですが、3話のサブタイトル変更されてます…

これからも修正かなり入ると思うので、

読者の皆様も「あれ?ここ変じゃない?」

って思ったところがあったら教えてください🙏

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