4-3

「はあ…」



何やってんだ俺は…。

つい十分前のことを思い出すと、何年も後悔しているような苦さを感じる。


奏美と、智也と、(いちおう)芦野と、俺。

高校に上がってから何だかんだ言いながら四人でつるんでいて

それが当たり前だったから、このままでいいんだと自分に言い聞かせる日々。


でも、この頃の奏美を見ていて、居ても立ってもいられなくなった。

取られたくない。視線も気持ちも、奪われたくない。

いままで蓋をしていた自分の想いに、素直に従うことにした。


単なる利用に過ぎなかったとしても、それでいいと思っていた。

だけど、やっぱり辛い。

形式上は恋人になれても、所詮は形だけの関係。

その先に進めても、すぐに終わってしまう関係。

あのままゴリ押しても良かったけど、急にそれが怖くなって

『一週間、我慢ごっこね』だなんて。

まるでどこかの少女漫画みたいだ。そんなゲームもしたことは無い。


結局、俺は自分で自分の首を絞めてしまった。

何やってんだよマジで…。




トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…

家の固定電話が鳴る。


「えぇ?誰?」


のっそり立ち上がって表示を確認した。


「…ああ」


そのまま電話に出る。


「コホン…はい、もしもし」

「夜分遅く大変失礼致します、花榎高等学校の冴島と申します」

「あ、俺です、先生」

「おお…大丈夫そうか?田宮」

「先生、すいません、昼間出られなくて」

「いや、こちらこそ時間考えられずに申し訳ない」

「いえ…」


若い先生にしては、チャラチャラしてなくて、正直意外だった。

まあ、始業式の挨拶のときは、ちょっとヤバいかもって感じたけど。


「明日は、来られそう?」

「ああ…、はい、今のところは」

「まあでも、無理しないでちゃんと休めよ」

「ありがとうございます」

「保護者の方いらっしゃる?」

「いや、今日は母も遅番で…」

「そっか、分かった、俺から後でメールしておくよ」

「よろしくお願いします」

「じゃあご両親によろしくお伝えください」

「はい、失礼します」

「失礼します」



敵いそうにもない。

見た目も、知性も、性格も、まるで完璧そのものだ。

勝手に自分の中で、奏美は違うと思ってた。

本当にそれは勝手な願望だったわけだけど。


でも奏美は、俺を振らなかった。

むしろ答えはYES、付き合おうとした。

その気持ちを忘れてしまいたくて、俺を利用しようとした。

そういうことだろうな、きっと。

何せ相手は教師だ。

自分のこともあるし、諦めようと必死に……



「ん…?」



なんだか、そういうことにしておくには、違うような気がする。

とりあえず、明日の準備を整えた。

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