4-2
「奏美ってさ、見つめられるのに弱いよね」
「なっ、何言ってんのよ」
「あと、ここ」
耳たぶの後ろをスっと撫でられる。
ひゃあ、と変な声が出る。
「彼氏は彼女が男友達と電話してたら、意地悪するもんでしょ?」
「彼氏って…何言って」
「いいよって言ったじゃん」
「そ、それはっ」
「はいシーっ」
人差し指を口元に当てられ、話すのを勝手に止められた。
「じゃあ…一週間、我慢ごっこね」
「…は?」
「俺は、奏美に手出すのを我慢する」
「私は?」
「うーん…俺に落とされないように耐える」
「なにそれ」
「意外と大変だと思うなあ、今までの様子見てると」
「変なこと言わないでよ」
「んじゃ大真面目に言っていいの?」
ぐっと距離を縮めて、真っ直ぐな目で佳月は言った。
「俺、奏美を本気で好きにさせるからね」
「っ…!?」
唇を片側だけ上げて微笑むと、今度は反対に早く帰れと催促されて
あっという間に玄関を出てしまっていた。
「…何やってるの私は……」
表札のある柱に寄っ掛かって項垂れた。
それからというもの、家に着いても入っても
料理をしていても何をしていても、佳月の言葉がぐるぐる脳内を駆け回っていた。
『嘘つき』
『俺、奏美を本気で好きにさせるからね』
やっぱり…彼は鋭い人だ。
自分を好きな人がいるなら、とりあえず付き合ってしまおう。
こんな幼稚で人を傷つけるだけの考えを、ある意味否定してくれた。
その上で佳月は、私を「本気で落とす」と言った。
でも正直、私の困惑の原因はそちらでは無い。
どうしたら良いものかと困り果てているのは、佳月のことじゃない。
未だ行ったり来たりの曖昧な鈍い感覚が、佳月のせいでもっと引き立たされてしまっている。
ピコン。将にいからだ。
『ごめん!帰り遅くなるから先いろいろ済ませてて!』
「了解、っと」
あーあ。また一人の夜ご飯だ。
学校が通常登校になってからは、当たり前だけど将にいの帰りは遅い。
公立みたいに週一は少なくとも定時上がり、とかそんなのは無い。
月曜から土曜までしっかり出勤だし、日曜も休日出勤は日常茶飯事。
私は別に、家事も勉強も今までと同じようにやればいいから困らない。
ただ…、その分、余計なことを考えてしまう。
部活のマネージャーの子かわいいし、
職員室の隣の席の人は美人な家庭科の先生だし(確認済み)、
そうでなくても学校中の女子にモテモテだし、
その…心配事が多い。嫉妬とかそういうんでは無くて、心配なのだ。
「昨日の残り物でいいかな」
だからこうして、わざとらしく独り言を呟いてみる。
将にいに教室以外であまり会えていないこの寂しさを、紛らすために。
でもそれが余計に、一人ぼっちを際立てている。
「はあ…」
深いため息が、どこまでも向こうへ響いたような気がした。
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