第4話『はじめの一歩』

4-1

「嘘つき」



唇まで、あと二センチ…。




タンタラララランッ…タンタラララランッ…


佳月のスマホが着信を告げる。

振り返ったけど、それを無視して再び顔が近づく。

思わず私は胸を押した。



「出たらっ?」

「えっ…」



仕方なさそうにそれを拾う。着信の主は智也だった。



「あーもしもし」

『おい佳月っ、二人が来ただろ』

「ああ…移しちゃうかもしれないからって断った」

『はあっ!?何言ってんだよ、具合なんか悪くねえだろ!』

「いや、普通に風邪」

『ほんとかー?』

「智也まで来るとかやめろよ?」

『部活帰りに寄り道できるほどタフじゃないごめん』

「謝らなくていいわ」



小さいけど、智也の声も何となく聞こえる。

まさか横に、私がいるとは思ってもいないだろう。

一度、嘘で塗り固めたら、そのヒビも嘘で埋めなければならない。

今までこんなふうに誰かを欺くなんて、したこと無かったのにな…。



『じゃあ奏美にも電話すっかな』

「おお、いいんじゃない」

『てかやっぱ元気じゃん』

「ムリムリ、めっちゃ咳出る、コホッコホッ」

『下手かよ、じゃあな』

「ありがとう、じゃあ」



タツっと画面を叩いて電話が切れた。



「奏美にも電話するってさ」

「おっけー…えっ!?」

「どーする?帰る?それとも…」

「か、帰るっ」

「即答かよ」



タタタンタン…タタタンタン…



「あっ…」

「ざんねーん」



意地悪な笑みを浮かべて、電話に出るよう催促する佳月。

唾をゴクッと飲み込んで画面に触れた。



「も…もしもしー」

『あっ奏美、いま平気?』

「う、うん、大丈夫」

『佳月に断られたんだって?』

「あーそうなのそうなの、まあ仕方ないよねっ」

『明日来たらメタメタに言っておくからな』

「いいよ、やめてあg…ひゃっ」


佳月の細くて長い指が、耳たぶの後ろをなぞる。


『どした?大丈夫?』

「うんっ平気っ」

『ったく…佳月ほんとに具合悪いのかなぁ』

「ええっ?」

『電話の声、なんか普通そうだったんだよね』

「ああ、電話したの?へえ?」


ダメだ…すっごくわざとらしい。

そして意地悪な指は、顎の方まで顔の輪郭に触れていく。


『まあ俺的には佳月が居ない方が奏美を独占できるんだけどさあ』

「さらっとそういうことっ…言わない、の」

『奏美?大丈夫?』

「うんっ…はぁっ」


隣でニヤニヤしている佳月の指が、だんだん下へ降りてくる。

私はその指を五本丸ごと握って制した。


「智也ごめんっ、掛け直すね!」

『えっ!?ちょ』─ぷつッ



「なんだーつまんないの」

「あのねえ?」

「怒った?」

「そりゃあ…」


切れの長い潤んだ瞳だけで、私の口は塞がれた。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

作者です。更新遅くなってしまいすみません💦‬

夏休みの課題を終わらせたり

3話までの校閲、4話の構想練りなどしてました

いよいよ運命の第4話がスタートです!

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