3-10
放課後、先生に佳月のことを聞いた。
「せ、先生っ」
「!?」
珍しく話しかけてきたからか、かなりビクッと驚いた様子だった。
「佳月、体調悪くて休んだんですか?」
「ああ…、朝もらったお母さんからの電話では、そう言ってた」
「そうですか…」
もしあれが原因なら、言うまでもなく私のせいだ。
「お見舞い行っても大丈夫ですかっ!」
調子のいい晴香が後ろから声を上げる。
「いいとは思うけど…ほどほどにな」
「わかってまーすっ」
「「(絶対わかってない)」」
薄苦い顔を向けて、アイコンタクトを取る。
(ほどほどにさせます)
(よろしく)
「奏美ーっ、早く行こっ!」
「うんー」
引きずられるように教室を出て行った。
音楽室のフロアを過ぎて、
今日も将にいはピアノを弾くんだろうか
さっき佳月のことを聞いてどう思っただろうか・・・
そうやって相も変わらず、将にいのことばかりを考える。
そりゃ気になって当然、だって兄なんだから、と
目の前の
でもそうしたら、真っ暗で何も見えなくなって…。
「奏美っ!」
「へっ」
「へっ、じゃないわよ!さっきからボーッとしてどうしたの?」
「ああ、ごめん、考え事」
「なんだー佳月のことを考えたのか〜、そうだよねぇうんうん」
スルーして校門を出る。
「ちょっと〜、置いてかないでよ〜」
この際さっさと行って、さっさと帰ろう。
変な気が起きないうちに、帰ろう。
晴香も居るんだし。なんならこの後ふたりでタピってもいい。
「晴香」
「ん?」
「このあとタピオカ行こう」
「どしたの?急に」
「うん、タピりに行こう」
「それはいいけど…」
ピコん。
私のスマホがメッセージを知らせる。
誰だろう。智也かな。
『ちょっと話したい』
『家の前まで来れるかな』
「…えっ」
「どしたのー?…えっ!?」
メッセージの主は、佳月だった。
『今から行こうとしてたとこ、お見舞い』
『そっか、ありがとう、ひとり?』
『ううん、晴香も居る』
『まじか笑』
『私ひとりの方がいい…よね?』
『うん、芦野には申し訳ないけど』
『わかった』
「なになに?何だって?」
「やっぱりお見舞い、今日はやめといた方がいいかも」
「えっ?」
「移しちゃうと嫌だから、やめといてって」
「そっかぁ…佳月の家に上がれると思ったのに……」
「仕方ないよ、また今度ね」
「うん」
晴香、ごめん。嘘つきな私を許して。
私はいつだって、嘘つきだ。
「ごめんっ、買い物してかなきゃ」
「おつかい?」
「うん」
「そっか、じゃあバイバーイ」
「気をつけてねー」
また一つ嘘をついて、私は再び佳月の家へ向かった。
ピーンポーン
「…お待たせ」
「いらっしゃい」
いつもの玄関に靴を脱いで、部屋へ上がる。
後ろでカチャリと、鍵の閉まる音が耳を掠めた。
「ごめん、二人で来てくれたのに」
「いや、全然っ」
本当はこんなの御免だった。
そう思ってしまうのは、どういう気持ちからなんだろう。
「休んだのは、別に奏美のせいとかじゃないから」
昨日と相変わらず、冷たく言い放った佳月。
その顔は私には見えない。
「でも、具合悪そうにも見えないけど…」
「サボりたくなる時、あるだろ、たまには」
「…嘘つき」
視線を落としたまま、佳月はこちらを振り返った。
「じゃあ、なんで来たの」
「それは…」
心配だったから、と、私が軽々しく言っていいんだろうか。
実際、理由はそれだけじゃなかった。
「まだ、返事してないから」
不意を突かれたような顔でこちらをパッと見る。
「だって、そうでしょ?」
「…もう、フラれたもんだとばっかり……」
佳月に一歩、二歩、三歩くらい近づいた。
「私は、別に担任のことが好きなわけじゃないよ」
佳月の瞳が、少しの光を取り戻したようにキラっとした。けど、
「いや、でも…」
だからといって佳月のことが好きなわけでもない。
という言葉が心の中に流れる。
佳月もまた伏せ気味に私の顔から目を逸らす。
「だから、いいよ」
「…へっ?」
「ただし、周りの人には絶対に言わないこと」
「いや…」
「よろしくお願いします」
少しの間、見つめ合う。
何かを訴えるように、でもそれを隠すように…。
佳月の顔がすぐそこまで近づくと、小さく耳元で呟かれる。
「嘘つき」
唇まで、あと二センチ…。
───────第3話 fin──
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
第3話、ご覧いただきありがとうございました!
最後だけ更新遅れてしまってごめんなさい🙇
期末試験があったもので…。
そしてそして、あのクイズの正解発表です🎉
将にいがあのとき弾いていた奏美の好きな曲…
・
・
・
スピッツさんの『つぐみ』という曲でした〜!
今後のお話を読んでいくと、
なぜこの曲なのかが分かると思いますので、
ぜひ歌詞を調べてみてください!
相変わらず更新遅いですが、
ぜひ第4話もお楽しみに♪
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