3-5
ガラッ
「「!?」」
「おい…何やって……」
現れたのは、冴島先生だった。
「いやあの、これはっ」
佳月から離れて、何か言い訳を考えたけど、何も口から出てこない。
「その、変なあれじゃなくて、えっと…」
「いいとこ邪魔しないでくれません?」
「はっ!?ちょっと!」
「あ…ごめん」
「なんで先生も謝るの!?」
そのまま黙ってピアノのところへ駆け寄ると、
手帳みたいなものを手に取って音楽室を出て行った。
どうやら忘れ物を取りに来たらしい。
「完全下校時刻は守ってな」
「はーい」
「ちょっ、だから違…」
出て行ってしまった。どうしよう。
こんな勘違い、絶対ダメ。ダメだよ。これじゃあまるで…。
「恋人みたいになっちゃったね」
「ばかっ!」
音楽室を飛び出した。
┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉
「はあはあはあ…」
悪い夢でも見てしまったみたいだ。
家にも帰れない。将にいに何て言えばいいか…。
今日はもう、誰とも口を利きたくない……。
そう思いながら、気がついたら最寄り駅の改札を出ていた。
突然、スマホが震える。
誰からの電話だろう。智也かな。晴香かな。
「げっ」
正解は、将にいだった。
出たくない。
第一どうして電話なんて掛けてくるんだ。
あんなのを目の前で見たあとなのに。
一向に鳴り止まないので、仕方なく耳に当てた。
「…もしもし」
「もしもし?」
「どしたの」
「いや、その、が、学校出たよ!」
「……」
「奏美?」
「それだけ?」
「えっと…、帰ったら、話がしたい」
「…わかった」
あ〜怒られる〜。
学校で破廉恥なことするんじゃない!とか言われるのかしら。
あれは私、何もしてないからね!?ただ固まってただけで…。
固まってたのも誰のせいか、知らないくせに。
「とりあえず、夜ご飯!」
今日はオムライス。よりによってオムライス。
でも仕方ない。もうそういう気分なのだ。
スーパーに入りカゴを取った。
卵は家に四個ある。でもオムライスで使ったら無くなるから買っとく。
チキンライスは…自分で作ろうかな。鶏肉とミックスベジタブルと玉ねぎ、あと我が家ではツナが欠かせない。
汁物はどうしよう。さっぱり系がいいな。わかめスープはどうかな。洋風スープの素で作れば簡単だしオムライスにも合う。
よし、決まりだ。
レジへ行き、買い物を済ませた。
帰り道、同じスーパーで買い物を終えたらしい親子がいた。
子どもはまだ小さくて、お母さんも若かった。
でもやっぱり母親は母親で、言葉では言い表せないような感情が込み上げてくる。
私に母親はいない。父も傍にはいないけど、将にいが父代わりのようなものだった。
それに将にいの話によれば、父は海外にいるらしい。会ったことも声を聞いたことも無い父が、一応はいる。
でも母は、私を産んですぐに亡くなったと聞いた。将にいを産んだときから病気がちだったらしいが、一人っ子にはさせたくないと私を産み落とし、そのまま死んだ。
私には、父も母も居ないのが当たり前で、知らないのが当たり前だった。
だから授業参観のときや友達の家にお邪魔したとき、お母さんだのお父さんだのと呼んでいるのが不思議に感じた時期もあった。
そしてあるとき、将にいに聞いた。どうして私にはお母さんもお父さんも居ないの?って。
その時の将にいの顔はよく覚えている。苦いものを噛んで我慢しているみたいだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
作者です。
なんだかシリアスな感じ…?
複雑な家庭環境なんです。
☆前回に引き続き、クイズのヒント☆
(ヒント2:日本の人気バンドで、紅白歌合戦に出ないことでも知られています)
分かる人には分かっちゃうかもしれない…。
次回からはアーティストではなく
曲のヒントを出していきます。お楽しみに!
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