3-3

「奏美、ほんとに大丈夫?」

「大丈夫だって」

「だけどさっきも…」

「大丈夫だから!ほらっ」

「ええっ」



SHRが始まるまでの時間、智也によってずーっとこのやり取りが繰り返されていた。

うんざりして、智也の手を自分の額に当ててみせた。



「もう熱無いでしょ」

「う、うん」

「咳もしてないでしょ」

「うん…」

「ほんとに少し、眠たいだけだから」

「……」

「…智也?」

「奏美って、そういうところアホだよな」

「えっ?」

「いや、なんていうか…、良く言えば…天使?」

「は?」

「悪く言えば、悪魔」

「え、全然違うじゃん、逆じゃん」

「そういう感じなの!」

「意味分かんない」


「ちょっとそこー!」

「えっ、なにっ」

「なーに公共の場でイチャついてんのよ」

「い、イチャついてねーし」

「はい今 どもったー」

「疑惑を深めただけじゃんもう」

「俺にとっては十分イチャイチャだった…」

「遠い目でそれっぽく言わないでよ」

「晴香様は見逃さないっ」

「そんなドヤ顔しなくても」



ガラッ

あ、来た…。



「帰りのショート( SHR《ショートホームルーム》の略)始めるぞ〜」

「気をつけ、礼」

『『『お願いします』』』

「えーっと、来週から少しずつ健診が始まるので体育着等々忘れないように〜・・・」



ダメだ。話になど集中できない。

舐めるように将にいの頭から脚までを見つめていた。


『かっこいい』その一言に尽きた。

心から本当に、将にいを格好良いと思ってしまって。

それだけではなく、あらぬ妄想を繰り広げてしまって…。

でも、私は認めない。認めたくない。



「他に何か連絡ある人〜?いない?おっけー、じゃあ帰ろ」

「気をつけ、礼 」

『『『さようなら』』』

「あっ、さよならー…」



こんなときは、さっさと家に帰ってご飯を作るに限る!

今日の夕飯は…そうだ。オムライス。オムライスにしよう。


気持ちを切り替えて意気揚々と教室を出た。はずなのに…。



「奏美っ」


後ろから早くも呼び止められる。

声の主は、佳月だった。


「ちょっと、来て」

「えっ」


廊下を真っ直ぐ、手を引かれる。

佳月の左手はなんとなく冷たかった。


「ここ…音楽室?」

「こっち」


ピアノから隠れるようにして、物陰に隠れた。

すごい…近い。佳月と、ほぼ密着状態。


「ドキドキする?」

「な、何言ってんの」

「やっぱしないか〜」

「ていうか、なんで音楽室?なんで隠れるの?」

「見ていれば分かるって」

「見ていればって何を…」

「あっ、来た」



教室の引き戸が開いた。

聞き慣れた足音。西陽にしびが作るシルエットで、すぐに分かった。


ピアノの椅子に座り、足をペダルに置く。

そのまま一旦動きが止まった。と思ったら、おもむろに鍵盤に触れる。


私は知らなかった。将にいがまさか、ピアノを弾けるなんて。

どうして今の今まで知らなかったのか。

家にピアノなんてあったこと無いし、そんな話を聞いたことも無い。


流れてくるメロディーは、クラシックではない。

そういう音楽に疎い私でも分かる。

なぜなら流れてきたのは、私の大好きなバンドの大好きな曲だったからだ。


そして何より、音を奏でる将にいが

とんでもなく綺麗で、美しかった。

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