3-2

午後の国語は眠たい。古典なんてもう寝る運命すら感じる。

とってもスローペースな話し声は、みんなの間で"lullabyララバイ(=日本語で「子守唄」)"と呼ばれている。



「五時間目これはキツいって…」

「食べたあとで古典って眠気のダブルパンチだよね」



まだ普通に喋っていても何も言われないから眠気に打ち勝ててるけど

「一切喋るな!そこうるさい!」

みたいな先生だったら怒られても確実にみんな寝る。

すでに隣の友達、もう寝そう。


それでも私は、必死にノートを取り続ける。

また後で見せろとか言われるのは嫌だけど、でないと私も眠たくなってしまう。



『『『ありがとうございました』』』


「あー終わった〜!」

「智也〜お疲れ〜」

「なんで奏美って寝ないの?すごくない?」

「頑張ってノート書き続けてると寝られなくなるよ」

「へえ〜真似しよ」



相変わらず佳月は会話に参加してこない。

いつもだったら智也をいじりに来るのに…。

私も何だか気まずくて、声を掛けたりはしてないけど。



「なあ、佳月の様子が変なの、何か分かった?」

「えっ、いやあ全然」

「そっかー、なんか心配だな」

「とか言って、智也が何かしでかしたんじゃないの〜?」

「なわけねーだろ!」

「あはは〜そうだよね〜」



なんだか私まで…。



「奏美?」

「ん?」

「大丈夫か?顔色悪いような…」

「えっ、だ、大丈夫!全然!」

「そう…?」

「つつ次の授業の準備しないと!ねっ」

「お、おう」



六時間目の数学、全く集中できなかったのは言うまでもない。



「冴島、冴島っ」

「え、あっ、はいっ」

「三番の答え出たか?」

「す、すみません、まだです」

「今出るか?」

「えっと…(2x+3y)(2x-3y)(2x+3yi)(2x-3yi)です」

「うん…オーケー」


「(さすがだね…)」

「(今の暗算でしょ?)」

「(冴島やべぇな相変わらず)」



耳障りだ。本当に耳障り。

褒め言葉にはとても聞こえない。

嫌味を言われているみたいで、とても嫌だ。

いつもならこんなとき、隣の佳月が気を紛らわせに話し掛けてくれるんだけど…。



「………」

「(鬼スルーされた…)」



私があのとき屋上で、

もっと上手く言えてたら。


『ごめん、私…』


もっと上手く、謝れてたら。


『べ、別にその、嫌だとか拒絶とかそういうことじゃなくて…』


佳月のことを、傷つけてしまったのかもしれない。

私は佳月の好意を、踏みにじってしまったのかもしれない。


『でも、待ってるから、返事聞かせて』


あの言葉は、

まだ返事は貰ってないと思っている

っていうことなのかな。


いつ伝えればいいんだろう。

どう言えばいいんだろう。

何が、答えなんだろう…。



「奏美ちゃんっ」

「えっ」

「号令、かかってるよ」

「あ、ああっ」


『『『ありがとうございました』』』

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