第3話『逃げ道は嘘だらけ』
3-1
「俺、奏美が好きだ」
「…えっ」
思考が、追いつかない。時が止まったみたいだ。
冗談はよして、って、笑い飛ばせるような感じじゃない。
すごく真剣な顔で、私を見つめている。
言っている意味はすぐ理解できた。
それに対する言葉が、すぐに出てこない。
何て言おうか困ってるうちに、身体は佳月の胸の中へ引き寄せられた。
「俺、本気だよ」
骨っぽくない、しっかりした身体で、優しく抱き締められる。
でも思い出すのは、あの日のことばかり。
思わず佳月の両肩を押して離れた。
「ごめん、私…」
するっと佳月の細くて白い手が落ちた。
「いや…俺の方こそ、ごめん」
「べ、別にその、嫌だとか拒絶とかそういうことじゃなくて…」
「分かってるよ」
「えっ…」
「奏美はそんな人じゃない」
「佳月…」
「でも、待ってるから、返事聞かせて」
寂しそうな顔で、中に入っていく。
屋上に一人取り残された私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「おかえり〜」
「……」
「奏美?だいじょーぶ?」
「…んっ?あ、ごめん」
「ちょっと〜やめてよ、どうしたんよ」
…言えない。まして晴香に、言えるはずもない。
佳月に屋上で告られたなんて…。
「な、なんでもないっ」
「そう?あ、ねえねえ昨日のアレ見たー?」………
ありがとう、どうでもいい話。
こういう時の晴香のお喋りは本当に助かる。
私は状況の整理をしよう。
ええっと、まず、佳月は朝から様子が変だった。
いつもと違う、冷たいような、優しいような。
そして、先程。屋上で…。
『俺、奏美が好きだ』
ひぃぃ。どういうこと?どういうことなの??
様子が変だったのは、ある意味前触れだったのかもしれない。
告白する前に緊張していつも通りでいられなくなる…的な?
それにしても不思議。
佳月は私のことをそんなふうに…?
本当に不思議で不思議で仕方がなくて、友達だったのに云々などとはこのとき全く思わなかった。それもまた不思議。
そして、シンプルに私は、自分と佳月があんなことやそんなことをしている想像が出来なくて、純粋にどうすればいいのか何て言えば正解なのか、分からなかった。
「ねー奏美!聞いてる?」
「あっ、うん、聞いてない」
「聞いてないんかい」
「ごめんごめん」
ただ唯一分かったことは、将にいに抱き締められたときとは何かが違ったということだけ。
その「何か」が何なのか、私は知らないふりをして、この後とんでもない大嘘をついてしまうことになるのだった…。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
作者の明音です
ようやく第3話に突入です!
応援の星とコメント本当に嬉しいです
相変わらず更新遅いですが、
ぜひ最後までお付き合いください!
よろしくお願いします
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