2-8
「気をつけ、礼!」
『『『お願いします』』』
「冴島は抜けていいよ」
「ありがとうございます」
「何かあったら声掛けてね」
「はい」
三時間目の体育。
見学だからと言ってボーっとしていていいわけじゃないけど、どう考えても集中できるはずがなかった。
佳月のこともそうだけど…。
「「きゃーっ!将太先生がいるよー!!」」
『『『きゃーーっ!!』』』
「がんばってね〜」
『『『はーい♡』』』
「(なんで将にいがいるの!)」
「(見学だよ見学、いいでしょ別に)」
「(いいけどさ…)」
なぜか体育の授業を見に来た将にい改め冴島先生が隣に居る。
おかげで女子たちの視線が痛いんですけど…!
「前の学校の方が体育厳しかったなぁ」
「へ、へえ」
「奏美さんは体調どう?」
「あー、とりあえず大丈夫ですー…」
わざわざ会話を仕掛けてこないでよ…。
陰で何言われるか分かんないんだからもう。
「(ねえ、奏美ちゃん何か話してるよ)」
「(うわあ、媚びてんじゃん?)」
「(かわいいからって何なんだろうね)」
「(体調悪いなら学校休めばよかったじゃん)」
あのねえ…聞こえてるからね、そのコソコソ話。
そんなこと言ってる暇あったら準備体操くらいちゃんとやればいいのに。
「俺まだ校歌覚えられてないんだよねー」
「あ、はあ…」
そんな陰口には全く気づかず、独り言のように会話を続けようとする将にい。
教師のくせに鈍感すぎるわ…。
でも、それと同時に、どうしてこんなことを言われるのか、考えついた。
今まで散々言われてきたけれど、誰かと一緒にいることでそう言われるのは、佳月や智也のような人といるときだった。
てことは……将にいも同じってこと?そりゃまああれだけの人気ぶりは見て取れるし当然か。
「せんせーい!見ててね〜!」
「おう!がんばれー!」
クラスでいちばんスポーツ万能な子が、立ち幅跳びで最高記録を出した。
「おお!すごい!!」
「えへへへ」
「今度コツ教えてよ!」
「はいっ!」
あの子があんなにときめいてる顔、初めて見た。
元々仲がいいわけじゃないけど。
「奏美〜!先生!見ててねー!」
「「はーい」」
「「(あっ)」」
「えいっ」
晴香史上いちばんの好記録。イケメンは偉大なんだなぁ。
というか、先に私を呼んでくれてありがとう、晴香…!
「冴島先生!」
「あっ、すみません、お邪魔してます」
「いえいえ、いいんですよ全然」
あーあー、体育の吉野先生まで口元が緩んじゃって…。
あんな顔、見たことないよ。
会う人会う人、こんなにモテる人、そう居ない。居るはずない。圧倒的希少種。
とんでもない兄を持っていることに、気づくのが遅すぎた。
何だかまた、複雑な気持ちになる。
モヤモヤして、吐き捨ててしまいたい。でも喉の奥で突っかかって、上手く出てこない。
「先生モテモテですよねー」
「えっ?そう?」
「いや、ニヤニヤしちゃってますよ」
「あれま」
「とぼけないでくださいよ、この人たらし」
「その言い方は無いでしょ〜」
「いいえ!先生は圧倒的希少種な天性の人ったらしですー!」
「僕は、一人だけにモテればそれでいいんです〜」
「もうその時点でたらし」
「ええっ」
「三時間目終わっちゃいますよ、次の授業の準備とかいいんですか」
「あっはい…戻らさせていただきます…」
今なら皆こっち向いてない。黄色い悲鳴を浴びる姿を見ずに済む。
そう思っていたけど…やはりイケメンオーラは背後からも分かるらしい。
「えっ、先生帰っちゃうのー?」
『『『ええ〜』』』
「つ、次の準備があるから」
「まだ十五分もあるのにー」
「ほら、四時間目は英語だから、また会えるよ」
『『『きゃーっ!』』』
後ろ髪をグイグイ引っ張られるように体育館を出ていく横顔から、私は目を逸らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます