2-2

「めっちゃ分かりやすかったな」

「うん」


佳月も同じように思っていたのね。

他の人にそう言われると、自分のことみたいに嬉しかった。


「おお、智也、英語分かった?」

「もうね、めっちゃ分かった」

「すごくない?あの先生」

「ただのイケメン風な奴だと思ってたけど違ったわ」


イケメン風って何なの。横にいた私は思わず吹き出した。


「おいおい、そんなに笑うことじゃないでしょ」

「だって面白かったんだもん、あはははっ涙出てきた」


イケメン風は言えてる。でも要は、それだけ良かったってことだよね。

周りの他の人もそんな話をしていて、純粋に誇らしかった。



それなのに…。


「冴島せんせーい、ここ教えてくださーい♡」

「私も!ここ教えて?」

「あーはいはい、順番ね」

「「「はーい♡」」」


「はあ…全く」


あのモテようには、最早呆れるばかり。

ていうか、彼女居なかったの?ずっと居ると思ってた。


「先生すごいね」

「佳月も智也もあんな感じでしょ」

「俺は違うよ」

「俺も違う」

「よく言うわ」


何よりも、あの輪の中に晴香が居るっていうのが…。

我ながら親友としてもう救いようがない。


「そんな目で見るなよ」

「智也に言われたくないね」

「ええーなんでえ?」


「ほら、そろそろ次の授業始まっちゃうよ」

「「「はーい♡」」」


鈍感すぎてもう頭にくる。もうオーラが甘いのよ。

そりゃ女子高生にモテるわな。あれで料理が苦手って知ったらどうなるんだろう。ギャップ萌え〜とか言ってさらに拍車がかかるのかしら。


後ろ髪をリアルに引かれてるみたいにようやく教室を出て行かれた。



「あーあ、今日帰りたくなーい」

「なんで?何かあったの?」

「じゃあ私の家来る?」

「晴香の家は大きすぎて落ち着かない」

「ええ〜」

「俺ん家は?」

「智也は襲われそうで嫌だ」

「真顔で言うなよ」

「ウチは平気でしょ」

「佳月はね…お母さんとも仲良いし」

「「ずるーい」」



こうしてまだ平静を保っていられるのも、みんなが居るから。

これが少なくとも二年間…慣れられるのかな私。



「やば、次って数学!?」

「え、世界史じゃないの」


「このクラス理系だから社会って科目減るのかな〜」

「えーどうなんだろう」



様々な会話が、いつも通りの声が、聞こえる。

それが一変、あの人のおかげでグルっとマルっと変わってしまった。


授業が始まってもなお、頭の中は将にいと冴島先生のことでいっぱいだった。



「冴島ー、おーい」

「えっ」

「テスト、返してるぞ」

「あ、すみません!」


すっかり周りの音に反応できなくなってた。


「なあ、やっぱり具合悪いんじゃないの?」

「え、そんなことないよ大丈夫」

「ほんとに?」

「大丈夫だってば」


返された世界史は、九十九点だった。

なんでこんなミス…百点取れたじゃん普通に。


「はあ」

「なに、ダメだった?」

「いや別に」

「なんだよもう、今日ため息多いぞ」

「なんかねえ」

「なんか、何?」

「ううん、なんでもない」


無理やり笑ったけど、きっと佳月にはバレてる。観察力と勘が鋭いから。


「最高点は…冴島の九十九!惜しかったな」


点数わざわざ公開しなくていいでしょ。

せめて了承を得てからにして…。


そう思うと、さっきの英語は本当に良かったなと、改めて感じてしまう自分が居た。

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