第2話『モテモテの兄(=担任)』
2-1
学期初めの実力試験──春休みの課題テストみたいなものを終え、
ついに始まってしまった。
「奏美ー!」
「どした」
「ええ冷たいなあ」
「晴香がハイテンションすぎるんだって」
「だって、毎日あんなイケメン拝めるんだよ!」
「全く…懲りないねえ」
「芦野さーん、お時間ですよー」
「佳月くん!?」
「あとそこ、僕の席」
佳月が指差したのは、私の隣の席。晴香は分かっていて座っていた。
「ごめーん」
「席戻ってくださーい」
「はーい」
晴香はいつになったら抜け出せるんだろうか。
「なんか晴香の気持ち利用してきてない?」
「別にー?あるものは使うんだよ」
「うわー、自覚したら今度はこれですか」
「なんだよ」
「別にー?」
「真似すんなって」
ガラッ
うっ…入ってきた。例の"転校教師"。
「おはよう」
「「「おはようございまーす!」」」
「おお…うちのクラスは女子の元気がいいんだね」
違うぞ。このクラスに限らず、あなたの前では大抵の女子が元気になるんですよ。
「奏美?」
「んっ?」
「大丈夫?顔がまたすんごいことに…」
「奏美さん具合悪いの?」
「「えっ」」
前から声をかけてきたのは、当然あの人。
「冴島先生、違いますよ、大丈夫です」
「ほんと?」
結構ガチで心配そうな顔をこちらに向けてくる。
「だ、大丈夫です」
「何かあったら言ってね、他の人もねー」
「はあ
「「「はーい!♡」」」
…何なんだよ」
「奏美、また心の声が…」
「なに」
「なんでもありません」
「朝のホームルーム始めまーす号令」
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「おはようございます」」」」」
「着席」
基本的にホームルームは素早く終わる。
今日もつらつら連絡事項を伝えられて終了。
しかし…
「一時間目って何の授業?」
「え…英語だけど」
「はあ…」
「?」
よりにもよって最初の授業が、あの人の授業だなんて…。
でも、少し楽しみでもあった。
どんなやり方なのか、黒板の字は綺麗なのか、プリントなのかノートなのか、緩めなのかキチンと系なのか…。
まあでもテスト返しだから、そんなに分からないか。
テストは、実力試験だからかクセはそんなに無かった。基本的な問題から応用的なものまで幅広くバランス良く出されていたように思えた。リスニングはあれ、絶対に将にいの声。皆は特に気づいていなかったけど、私は一発で分かって震えた。
「はーい始めまーす」
いつの間にか教壇に上がっていた。
男子はテスト返しに緊張気味、女子は相変わらずイケメンにそわそわしていた。
「大丈夫かな…」
「一緒に課題やったし大丈夫だよ」
「あれ、英語じゃなくて数学」
「えっ、そーだっけ」
「じゃあ早速、テスト返すぞー」
一番から順に席を立っていく。
嬉しい気持ちを隠して鼻が膨らむ人、予想通り良くなくて真顔の人、意外と出来てて目を丸くする人、突然突き落とされたような顔になる人。
私は十五番目。そろそろだ。
普通に渡すのかなと思ったら、一旦止めてニヤッと微笑む。
明らかに嫌そうな顔をしてみせると、すんなり渡してきた。
「何点?何点?」
晴香に見せるようせがまれる。
ぴらっと見せると、口を尖らせて静かに席へ戻っていった。
「どうせ三桁なんだろ?」
隣の佳月に茶々入れられる。
「当ててみー」
「急に九十八点な気がしてきた…」
「なんでそーなっちゃうの」
「百点なんだな」
「ああ…」
佳月との心理戦(?)には勝てない。
「あー奏美〜」
「なに、どうしたの」
「点数やばかったんだよー」
「男のくせに泣かないでよ」
「泣いてねえし」
「智也はいっつもこーだよね」
「うるせえ!佳月こそ何点だったんだよ」
「知りたいなら先にそっちが言いな」
「…ド正論です」
「とりあえず模範解答配るから、ミスあったら十分以内に来てー」
先頭の人に紙を配っていく。
かなり効率いい。さすがは私の兄。
しかも、採点ミスは誰もいなかった。
「じゃあポイント的に解説するから、必要な人はメモ取ってね」
不要ではあるんだけど、かなり真剣に、聞くだけ聞いていた。
すごく端的で分かりやすいし、黒板も見やすい。
前の学校は辞めさせたくなかっただろうな、とさえ感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます