1-9

「じゃあ、お楽しみのゲーム開けますよ」

「はいはい」


お腹いっぱい食べて眠そうな顔をしていたのに、

ゲームのことになると途端に目が覚めるんだから呆れる。


「おっ!何この特典!?」

「待ってキャラのフィギュア付きなの!?」

「「やばい!!!」」


かくいう私も、特典見た瞬間の衝撃と言ったらもう。

こんな豪華な特典いいの?まあ私のじゃないんだけど。


「あーもう買えばよかった〜」

「金欠なんじゃないの〜?」

「皆はいいよね、親がお小遣いくれるから」

「くれないんだ」

「くれないも何も…」


あっ、いけない。

兄と二人暮らしで、ひとり親の父は海外赴任中だということを

誰にも言ってはいなかった。

特に隠す理由も無いけど、言わないまま生きてきた。


「テレビのリモコン取って」

「はいはい」


勝手が分かっている辺り、本当に自分の家みたいだ。

何かあって家出する用が出来たら、お世話になろう。


「おー!ストーリーモードとミニゲームモードがあんのなっ」

「ミニゲームで練習しよ」

「そうだな」


コントローラーはもちろん自分のを持参。

何だかんだまだ一代目で、佳月ほどじゃないから長持ちしてる。


「奏美、上手いな」

「そうかな?」

「さては…コソ練したな?」

「いや、持ってないから」

「あ、そっか」

「はい隙あり〜!」

「ああっ!」


時間を忘れて、ゲームに夢中になる。


「そう言えばさ、明日って実力テストだよね?」

「ん?そうだっけ?」

「惚けないの、春休みの課題終わってんの?」

「んーちょっとそれは企業秘密なんだよなあ」

「何それ、どうせ終わってないんでしょー」

「バレたー?」


もう六回目のミニゲームを終えて、

無邪気に私の方を振り向いてクシャっと笑う。

そんな可愛い顔しても意味ないぞ。


「ゲームなんかしてる場合じゃないじゃん」

「いいの!待ちに待った新作だし、奏美としたかったし」

「んもう…」


さり気なく嬉しいことを言ってくれるんだよな全く。


「どしたー?照れてんの?」


今度はニヤニヤしながら聞いてきた。なんかムカつく。


「違うもん」


二人の間に広げられたスナック菓子をつまむ。


「ふふっ、今の可愛い」

「はあっ?」

「もっかい」

「無理」

「なんで」

「無理なものは無理ですー」

「えー」

「てか軽々しく可愛いとか言わないの」

「なんでよ」

「はあ…もういい加減に自覚した方がいいよ」

「何を自覚しろって言うんだよ」

「あーもういい、はい、勉強してくださーい」

「ええーやだ!ゲーム!」

「ごねるな!」

「やだ!」

「じゃあ帰るよ私」

「やだ!」

「じゃあ勉強して?」

「いやっ!」

「ばいばーい」

「勉強します」

「よろしい」


まあ結局は、すぐに帰るんだけど。

実は言うと、佳月のお母さんにお願いされてるんだ。


「奏美ちゃんっ」

「あっ、佳月のお母さん!」

「もういつもお世話になってますー」

「いえいえ、こちらこそ…」


そう、あれは休日のスーパーでの出来事だった…。


「佳月がね、最近になって成績下がっちゃって」

「ああ確かに…、ゲームのし過ぎじゃないですか?」

「やっぱりそう思う?」

「でも禁止にしてもどうせ…」

「「スマホで遊ぶ」」

「あははっ、奏美ちゃん分かってるわね」

「そんなことないですっ」

「もう、佳月のことお願いね本当」

「お願いって…」

「とりあえず、勉強するように言って?というか、勉強させてっ」

「ええっ…」

「お願いよ〜、あの子ったら奏美奏美うるさいくらいでっ」

「そ、そうなんですか」

「今度うちに来た時は、頼んだわね!じゃあね!」

「えっああ、さよなら〜」


鷹の如くやって来て、早々に去っていってしまった…。

まあ、そういう訳で佳月をこうして無理やり、勉強机に向かわせてるのだ。


「もう〜多いよー」

「頑張ればすぐ終わるって」

「ええー」


拗ねるその横顔も、兄にどこか似ている気がする。

こいつ…ホント困った奴だな、もう。

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