1-7

結局、私は学級委員になってしまった。

ちなみに男子は、なぜか三本智也。


「じゃあ、あと連絡事項伝えたら終わりね」


「やった、もう帰れる」

「ええー俺は部活なんだけど」

「このあとタピオカ行こっ」

「いいね!行こ行こ!」


「ねえ奏美」

「んー?」

「約束忘れてないよね?」

「へっ?なんだっけ?」

「おいっ」

「…あーあれね、はいはい」

「ちゃんと来いよ」

「どうせまたお昼ご飯作らせる気でしょー」

「バレた?」

「三時くらいに行くね」

「まじ?」


こうしている間にも、先生はさらさらと喋っている。

私は聞き逃さないように、話しながらメモを取る。


「はい、じゃあ今日は解散!」

「「さよならー」」


案の定、女子が一気に群がっていく。

そのメンタル、違うところで使った方がいいよ絶対。


「先生、お菓子好きですかっ?」


箱買いしてくるくらいです。

いちばん好きなのは…。


「あのクッキー美味しいんだよなぁ」

「どこのですか??」

「いや、売ってないの、手作り」


ん?それって…。


「えっ、誰に作ってもらうんですか…?」

「あーっと、それは内緒」

「「「えええーっ」」」


「す、好きなお弁当のおかずはっ?」

「ポテサラ大好きなんだよなぁ」


そうそう。

お弁当に入ってないと怒られるもん。

俺のポテサラー!って。


「先生が作ってるの?」

「いやっ?…あー、それも内緒」

「「「えええーっ」」」


もういい。お説教は帰ってからだ。

リュックを背負って群れに背を向けた。


「あっ、奏美さーん」

「…ええ」


見えてたか。


「御用ですか」


私の放った言葉は、驚くほど低い声だった。


「御用っていうか…うん、御用です」


目が完全に将にいだった。

これはすっかり私がキレてると分かったな?


「ええ〜奏美ちゃん羨ましいっ」

「学級委員やればよかったー」

「あれ?智也様は?」

彼奴あやつは部活行きました」

「じゃあ伝言しといて」


群がる女子に帰れ帰れと手を仰ぐ。

イケメンには従順なのか、みんな波のように帰っていった。


教室には、私と、担任のみ。

沈黙が続く。いざこうなると、何を話せば良いのやら。


「…ごめん、驚いたよね」


口火を切ったのは、将にいだった。

そこに居たのは、もう将にいだった。


「驚いたも何も…」


背負いかけていたリュックを、机のギリギリに投げ出した。


「それで?学級委員は早速お仕事ですか」

「ああ、えと…」


ガザガサとA3の紙を引っ張り出す。

たぶん、文化祭についての資料だ。


「来週もう委員会会議があって、学級委員は…」


どうやら、来週の会議で生徒会から文化祭に関する話があるらしい。

つまりは先にこの紙に目を通しておけとの事。


「三本くんには明日渡すから、とりあえず」

「はい」


一枚貰って、半分に折ってファイルに仕舞った。


「…これでおしまいですか?」

「え、ああうん、連絡はこれだけ、です」

「じゃあ」


どうせこのあと、職員会議とかあるんだろうし。

詳しい話は後だ。

本当はすぐにでも問いただしたい。

でないと今、私は何に怒っているのか、忘れてしまいそう。だけど。


リュックにファイルをねじ込んで

腕を通そうとしたその時、

将にいが先に私の腕を掴んだ。


「えっ?」

「ごめん、俺…」

「そういう話は帰ってから」

「でも」

「場をわきまえてよ、家じゃないんだよ?」

「……」


一瞬で捻じ伏せられても尚、将にいの手は私の腕を離そうとしない。


「ねえ、帰りたいんだけど」

「……」

「聞こえてる?腕、離し…っ!」


何が起きたのか分からなかった。

いきなり視界がぐらんと揺れたと思ったら、

あっという間に将にいの肩に収まった。


「えっ、と…」

「…ごめん」

「将、にい…?」


優しく、でもしっかり、私の肩を抱いていた。

ああ、私いま、抱き締められてるんだ、将にいに。

え?ハグ?え…どゆこと?

なんで私、抱き締められちゃってるの?


訳が分からなかったけど

何故かお互い、離れようとはしなかった。

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