1-6

教室へ戻ると、奏美は魂が抜けたように突っ伏していた。


「なあ奏美、どうしたんだよ」

「眠いだけだよ…」

「ほんとかぁ?」

「うーん…」


んもう、近いよ佳月。

晴香や他の女子に何て言われるか分かんないんだから。

いい加減に自覚してほしいわ全く…。


ガラッ。


ああ〜!来たぁ…。


「おはようございまーす」

「「「きゃーー!!!」」」

「はあ…」

「奏美、随分と冷たいな」

「ん?んん…」

「そんなに眠いなんて、珍しいな」


「はいはい、ホームルーム始めるよ」

「「「はーいっ!」」」

「はあ……」


それにしても、どうしてあんなに平然としてるんだ。

まあそりゃあっちは?私がいる前提で?来てるわけだから??

普通ですよね?うん。


「冴島ー?冴島さんいないの?」

「へっ?」

「なんだ、あなた冴島さん?」


何その聞き方。

どこからどう見てもあなたの妹で

同じ苗字の冴島じゃないか。


「そうですけど」

「はい、つぎ佐々木さーん」


今度は無視ですかっ?はあっ?

まあ、いいですけどね!!

なに?これもう夢なんじゃないの?何なの?


「おい奏美」

「なに」

「冷たすぎない?」

「それがどうしたのよ」

「いや、別にどうってことは無いけど…」

「ほら、佳月呼ばれるよ」


「田宮…さん?くん?女の子?男の子?女の子だよね?」

「俺です」

「えっ」


やっぱりそうだよねえ。

女の子だと思われるわ、そりゃ。

さすがの将にいも間違えたか。


「ごめんごめん!田宮佳月…くん!」

「はい」

「いい名前だね」

「「「きゃーーっ!」」」


「うるさ…」

「心の声漏れてんぞ」

「佳月だって随分キレ気味でしたけど?」

「キレてなぁい」

「真似しなくていい」


「はいはい、雑談やめー」


将にい…じゃなくて、冴島によるホームルームが始まった。


「まずは…じゃあとりあえず自己紹介かな」

「「いえーーい!」」

「いいねえ、テンション高めだねー」


「そりゃね!」

「ねえ?」


女子たちがコソコソ話している。


「ん?なんて?」

「いえっ!な、なんでもないですっ」


顔近づけすぎなんだよー。ホントに無自覚なの?


「えーっと改めまして、冴島将太と申します

 今年で27歳になります」

「彼女いますかー?」


話を途中で遮って、例の質問が飛び交う。

先に言っておくと、いません。


「え〜どうだろうね」

「「えーっ?」」


にこにこ笑顔で答えている。焦らしてどうするよ。

無自覚だからこそ、ただ単に面白がってる。

だけどそれが、時に誤解されてしまうってことにも気づいてない。


「ええーいるの!?」

「ちょっ…もう晴香ぁ……」


一人でハイになってるのが晴香。

佳月は、目移りしてくれないかと言わんばかりの目をしている。


「いないよ、いませーん」

「「「ひゃーっ!」」」


何の悲鳴なの?居なくったってどうしようもないじゃん。


「はい、続きやりまーす」


その後の自己紹介は、よく覚えていない。

何せ私には不要なものだから。


「じゃあ次に…委員会と係、決めちゃおう」

「あ、先生」

「はい、なんですか?」

「学級委員なら…」


うっ。嫌な予感がする。

すぐそういうことを言う人、クラスに一人はいるよね。

そしてそれに便乗する人も、少なくはない。


「推薦したい人がいるの?」

「奏美ちゃんですっ」

「えっ」


戸惑わないでよ。いることは分かってたでしょ。


「ええっと…ああ、冴島さん?」

「はい」

「奏美ちゃんは、成績トップでスピーチも英語も上手で美人で…」

「やめてよー、そんなんじゃ無いってば」

「またまた、ご謙遜なさってぇ」

「ちょっと晴香…」


「まあとりあえず、他に誰も居なければ奏美さんってことで」


へっ?なんで?なんで、そうなる??

ていうか今、私のこと何て呼んだ?


「あ、僕も冴島だから、名前で呼ぶね」

「は、はあ…」

「うーん、それとも全員、名前で呼ぼっかなぁ」

「「「ひやーーっ!!」」」


是非そうしてください…。

冴島、せ、ん、せ、いっ!!

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