1-4

「なんでえ…両想いじゃないの……?」

「まーだ言う?」

「だってえ…」


そろそろ始まるって時なのに、しつこく理由を聞いてくる。私が「両想いじゃない」と思う理由だ。


「なんで両想いじゃないのー?」

「あとでねー」

「やだ!いま!」

「じゃあ先生に許可取ってくださーい」

「…すみませんでした」

「分かればよろしい」


司会の先生と号令係の先生の間から、ひょっこり登場し、舞台に先生が上がっていく。今日はこの先生なんだね、挨拶担当。


「全体、気をつけ、礼!」

「…ただいまより、平成31年度第一学期始業式を開会します」

「気をつけ、礼!」


「校長挨拶、田中校長お願いします」

「中央に注目!気をつけ、礼!」


校長先生のお話って長いイメージがあるけれど、うちの学校は全然だ。かなり波はあって長い時もあるけど、大抵は数分かからず終わる。ちなみに入学式と卒業式は長い。

だけど今日は、異常なまでに長い。いつもこんな話、してたっけ。

列はいつも適当で、名前順じゃない。だから後ろに晴香がいるんだけど。私の前の智也がくるっと振り向いた。


「なあ、今日の話長くね?」


小声で話しかけてくる。


「前向いててよ、余計なことで怒られたくない」

「別にいいじゃん」

「よくない」


手を前にパッパッと払って、前を向くように伝える。仕方なさそうな顔をして智也は向きを直した。


「気をつけ!中央に注目!」


突然の号令に、あちらこちらで聞こえていた話し声も消える。


「礼!」

「…校長先生ありがとうございました」


「やーっと終わったな」

「そだね…長かったあ」


智也の前にいる佳月もこちらを向いてくる。


「なんか無理やり伸ばしてる感なかった?」

「そう?俺なんにも考えてなかった」

「でしょうね…奏美は?」

「いやあ…でも佳月が言うならそうなんじゃない?」


佳月は洞察力に優れていて、ゲームの次に人間観察が趣味だという奴だから多分当たってる。

確かにあれは、何を話すのか忘れていたというより、話すことをひねり出そうとしている感じだった。


「次に、生活指導部よりお話があります」


「ええ、閉会じゃないのかよ」

「まだ新しい先生の紹介してないじゃない」

「あと担任発表ね」

「あ、そっか」


「気をつけ、礼!」

「えー皆さん、おはようございます、今日から新年度が…」


生活指導の話は、いつも長い。しかも同じようなことしか言われないから右から左。ああ、そろそろ立ってるの疲れたなあ。


うちの高校は私立だし、そんなに校則が厳しいわけじゃない。でも何かしらトラブルがあると、内容によりだけど割とその都度「お話」と称したプチ説教が全体にされる。

今回は、痴漢があったとかなかったとか、スカート上げすぎんなとか、そんなことだ。


「それでは今年も一年、一緒に頑張りましょう」

「気をつけ、礼!」


「はあー長かったねえ」

「もう何を話されたか覚えてない」

「それはヤバいって」

「ねえ次って新任紹介じゃない?」

「どんな先生来るかなー?」


周りがザワザワと色んなことを話していた。

そしてようやく、その新任紹介が始まる。


「お待たせしました、続きまして新しく赴任なさる先生方を紹介します」


「きゃー来たー!」

「晴香は毎年これが楽しみなんだね」

「イケメン来いっ!イケメン!!」

「来たってどうするのよ」

「え、目の保養」

「ああ…」


私は別に、あーこんな人ねって感じ。

それほど楽しみにしてたことでも無かったし、むしろ聞き流してるくらい。

顔と名前が覚えられればいいかな程度。


だけど、油断をしていたこの五秒後、私は見事に花と散ることになる…。

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