1-3
「ねえ」
「ん?」
「始業式って何分に集合?」
「黒板に書いてあるじゃん」
「えー見えなーい」
バシュッ
「いったあ」
「見えるでしょ」
名前順で隣の席になったのは、佳月だった。こりゃ晴香にまた怒られちゃうな。
「奏美!」
「あっ晴香!おはよ!」
「もうっ!また一緒に来たのっ?」
「違うよ、佳月は後から来たの」
すると、横から智也が茶々を入れてくる。
「寝坊したんだもんなー?」
「俺だって寝坊くらいするよ」
「何?その普段はしません的なドヤ顔」
「佳月くん相変わらずなんだからあ」
「いやあ…」
晴香のデレデレにやはり引いている。晴香は佳月のことが好きで、私を利用して何とかゲットしようとしているがなかなか難しいようだ。
「ねえねえ佳月くん?」
「奏美」
「ん?んっ?な、何?」
「今日さ俺んち来ない?」
教室中の女子の視線が一気にこちらへ向けられる。
「え、な、なんで?」
「この前言ってたゲーム、今日届くんだ」
「じゃじゃあ、晴香と…ついでに智也も一緒に!」
「なんでだよー、奏美だけでいいよ」
「俺は勝手に行くからな」
「来んなっ」
「いやぁでも…」
隣で小さく泣き出しそうなのが晴香。お嬢様気質がここで発揮される。
「なんで…?なんで私は駄目なの…?」
「違うよ晴香、私もゲームするから佳月は誘ってくれただけで…」
「じゃあ今日、パパにゲーム買ってもらう!」
「へ?」
いや、ちょっと違うような…?
「佳月も持ってないようなゲーム、たっくさん買って待ってるから!!」
「えっ!?ちょ晴香!?」
そして何故か、そのまま走って教室を出ていった。宛もないのにどこに行くつもりなのよ。
「訳わかんねえな」
「佳月、お願いだから晴香も誘ってやってよ」
「なんで芦野もなんだよー」
「それは…その」
「佳月のこと好きだからだろ?」
「はっ?え、そうなの??」
気づいてなかったのかよ…。
「いやっ、そ、それは本人に聞いた方が…」
「聞いてくる」
「「えっ」」
もう誰も彼も意味分からない!
自分のことを好きかもしれない人に確認しに行くって、大抵それは自分も好きだからすることだよね?
晴香が下手にポジティブ発揮して勘違いしなきゃいいんだけど…。
しばらーくして、佳月が戻ってきた。
と思ったら、その後ろから猛烈な勢いで晴香が私の元へ走ってくる。
「奏美!奏美奏美奏美!!!」
「あーもう何!?」
突っ込んできたと思ったら、急に肩を小さくして照れ臭そうに、
「佳月くん…私の事好きなのかもっ」
「…はあ」
これが晴香のとんだ勘違いだということは、後ろでゲンナリしている佳月の顔を見れば明らかだった。やっぱりそうなったか。
「あのねあのねっ」
「あー分かった、あとでね、あとで聞くから」
「いま聞いてください!」
「もう時間だもん」
「じゃあ歩きながら話すね!」
「ああ…はい、お願いしまーす」
腕をぐいぐい引かれながら歩く私を横目に、智也がにやにや追い越していく。その隣にはもちろん佳月がいる。
なによ、もう。自分で聞きに行っといてその顔は無いでしょうよ。
「ねえ奏美?」
「ん?ああ、ごめんごめん」
「それでね…」
晴香が話すには、こうだったらしい。
廊下でふらふらしていたら、後ろから佳月に声を掛けられた。
振り向くと、どストレートに
『芦野って、俺のこと好きなの?』
と聞いてくるもんだから、驚きながらも全力で
『うん!好きだよ!』
と答えたとさ。そうしたら佳月のやつモジモジしだして(?)、
『いやあの、正直言うとね俺…』
そこまで言いかけて、やっぱり言えなさそうな顔をするから
『ありがとう!私もっと頑張るね!』
と素直にそして見事に勘違い発言を炸裂させて、佳月の手を引いてルンルンで帰ってきたとさ。めでたしめでたし…。
って、全然めでたくはないんだけど。
つまり佳月は結局、決して晴香のことが好きでモジモジしてたんではなく、ただ断ろうとして上手く言葉が見つからなくて困ってたっていう理解でいいかしら。
「ね!絶対これは両想いだよね!」
「晴香…」
「ん?なに?」
「絶対それは」
「それは?」
「両想い、じゃないから」
「えっ…」
それから体育館までの道中は、右側だけ妙に重かった気がする…。
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