第12話 約束

首を──横に降った。


「渡さないよ。だって、領主様は君に女装させて喜んでいるんだろう? 変態じゃないか。」


やっぱり渡すよな…ってえ? あ、そっち? ルイは俺が女装させられてると思ってるのか…。


「あ、あぁまぁ」


「ヴァイスが女の子のように可愛いのはわかるけど、息子を娘って言って育ててるのはひどすぎるよ」


 ごめん父よ。俺のせいで変態扱いされてる。


「誰が来ても、僕が守るから…ね、約束」


体的には女の子だが…まぁ、いいか。


「ありがとう」


 探してくれているなら家に帰ってもいいのだが、もう少しだけ、ルイ達といたかった。男だと思われていているため素でいられるこの場所いえは思ったよりも俺の中で大きくなっているらしい。


 大切だからこそ、ルイ達に名前や、性別を偽っているのが、心苦しくなる時がある。今のように、守ろうとしてくれてる時などは特にだ。


 でも、俺の心は男である。そのため、自分で女の子なんだと言うのもまだ抵抗がある。だから、今はまだ言えない。しかし、今日のルイを見て、いつかは本当の事を伝えようと思った。だって、俺が何者でもきっと守ってくれる…。理解できなくても、分かろうとはしてくれるだろう。


今はまだ言えないが…


「いつか…言うから」


ルイに聞こえないくらい、呟くような声が口から出ていた。


 不安や安堵でごちゃごちゃしてきた頭をリセットするため、走りたい気持ちに駆られた。


「ルイー早く帰ろう! シュヴァもそろそろ出してやりたいし」


 走る背を見ながら


「本当は知ってたんだ…探してる事もヴァイスだろうという事も。そして、ヴァイスの秘密も…帰ってほしくなくて黙ってたけど」


と、ルイが言っていたが、その表情も声も俺には聞こえなかった。


 俺の心の中は不安と、安堵で困惑しており、大切にすると決めたはずの顔をよく見てなかった。


「ヴァイスー! デートは終わりなのかいー?」


後ろからルイも走ってくる。


「デートじゃなくて、買い物な」


「僕にとってはデートだよ」


と、ルイがニコッと笑った。髪の毛がキラキラ輝き、走る様は


「本当に、おとぎ話の王子様みたいだな」


さっきとは逆にルイの足が止まる表情が硬い。


「…え?」


「あ、いや、髪の毛キラキラして奇麗だなって、宝石みたいだ」


体全体がビタッと止まっていた。それから、一瞬暗かった表情もすぐに明るくなり、心なしか嬉しそうだ。


「俺もどうせならそっちのが良かったなー女の子にモテそうだし」


途端に不機嫌になった。


「君は本当に僕を上げて落とすね」


「何が?」


 なぜ不機嫌なるのかわからない。褒めただけじゃん。あ、女たらしぽいって言われたと思ってるのか?


「女たらしぽいとはいってないぞ?」


「なんの事? 僕、女たらしに見えてるよって事?」


え、ますます不機嫌になったんだが…


「思ってないって。ルイが家族一途なの知ってるから…女より妹だろ?シスコンだもんな」


「…確かにシスコンではあるけど」


なんか、納得いってない顔をしている。


「ルイ? 怒っているのか?」


「怒ってないよ。ちょっとショックだっただけ。落ち込んだから手繋いでくれないと帰りたくないな」


 なんて言うとしゃがみ、上目遣いでこっちを見ながら手を出してくる。


 フード姿の二人が、片方花束抱えてしゃがみ込んでいるのでだんだん目立ってきた。


「あーもう! わかったから…ほら!」


 俺は手をつなぐとルイを引っ張った。ルイは転けそうになりながらも立ち上がると、嬉しそうにニコニコ笑っているだけではなく、


「手繋いだし、やっぱりデートだね」


などと言っている。


 男二人で黒フードかぶってデートだなんて、何が楽しいんだ。ルイが考えることは俺にはさっぱりわからないな。

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