第11話 花束と

「ヴァイス!花買って帰ろうよ~」


 ルイが花屋の前で止まり指を指した。


「花?」


確かに、色とりどりの花はきれいだが…花なんて買うようなタイプだったか?


「名無しとかお前とかで呼ばれてたって言うから…花の名前をつけるようにしてるんだ。ほら、あの子達花のように可愛いいでしょ?」


ルイがニコッと笑った。


 ルイが育てているのは現在3人、ツバキ、フィラ、マリの3人だ。ツバキは女の子だし可愛いいで合ってるけど…フィラとマリは男の子なんだよなぁ…。見た目年齢年上に可愛いいとは言いにくい。


 というか…


「ツバキはわかるけど…フィラとマリも花の名前なのか?」


ツバキはわかるがフィラとマリが?聞いたことない。


「そうだよ~。フィラがネモフィラでマリはオオデマリから取ったんだ~ちなみにツバキもオトメツバキから取ってるんだよ~」


 全部聞いたことないな。ツバキもただのツバキじゃなかったのか。


「聞いたことない」


「ん~ほら!あの水色がネモフィラ!そしてこれがオオデマリ!」


 ルイが指差す方をそれぞれ見ると、澄んだ青空のような花と見てるだけで引き締まりそうな薄緑の可愛らしい花かある。


「あった!そしてこれがオトメツバキ!」


 オトメツバキは鮮やかな桃色に、何重にもなった花びらの綺麗というか、可愛らしい花だった。ツバキのふわふわした桃色の髪の毛や雰囲気にそっくりで…


「なるほどな…髪の毛の色がそっくりだな」


「でしょ?」


 この世界の髪の毛は基本濃い。だから俺らは差別される…が、あいつら魔力少ないおかけで花のように鮮やかなものを手に入れている。普通ならマイナスだけど…この花見ると長所のような気がするな。

 髪の毛が鮮やかなツバキ達が羨ましくなってくる。

ん?そういえば…


「ルイ…俺は花じゃないんだけど…」


「あ…店員さーん。このオトメツバキとネモフィラとオオデマリで花束作ってくれますかー?」


 あからさまに目をそらされた。


「なんでだ」


ごまかされないからなっと付け加えると気まずそうに…


「んーあまりにも綺麗な白で輝いてたから…かな」


と、答えてくれた。まぁ、別に仲間はずれになったとか思ってないし。寂しいとかも思ってないからな。統一しといてくれよ。


「はいよ!花束!13エトワだよ!そういやあんちゃん旅人かい?フードなんかかぶって」


「そのようなものです」


 旅人ではないのだが、ルイがしれっと答えながら13エトワを払う。エトワとは日本で言う円のようなもので、1エトワ=100円となっている。


 しかも持ち運びもギルドカードや、貴族カードの様な身分証明書とくっついているので楽である。受け渡しもカードとカードをくっつけながら払いたい人と貰いたい人がそれぞれ思い浮かべて一致すればいいのだとか…なんとも便利である。盗まれたら終わりだけど。


 ちなみに、子供はカードをまだ持っていない。ギルドと同じく12歳から1人前とされるため、12歳以下は持っていないのである。だから、俺が服売ったやつとか、髪売ったやつはルイに預けてある。いくらになっかも知らないけど、世話になってるから別に問題はない。


「そうかい。じゃぁ知らないだろうが、最近領主様の娘がいなくなったんだと、領主様が必死になって探してるんだよ」


父が…俺を探している?


「おと──領主様が?その話詳しく聞かせてくれ」

俺の返事にルイが首をかしげている。


「どうしたの? ヴァイス」


「ちょっと…な」


「詳しくと言われても…あ! そうそう!

 娘さんは白い髪をしているんだそうだよ。それが本当なら領主様の娘でも、気味悪いさねぇ。誰も探したくなかったんだけど、先日見つけた者に10,000エトワ出すって言ってるもんだからみんな必死よ。旅人さんも見かけたら教えておくれね」


 白い髪と聞いたルイからえっ…と戸惑っている声がした。父よ。探すにしても大々的すぎる。反省してるなら戻ってもいいとは思っていたが。


 …しかし、10,000エトワって…日本円で100万!?

たっか! 自分で行って金貰おうかな。あ、身分証持ってないやほんっと子供に不便すぎる。コインも出そうと思ったらフリスクみたいにして出るらしいけど…たくさんあると邪魔だしな。


「ありがとう!もし見つけたらおばちゃんに教えるよ」


そう答えてルイの裾を引っ張る


「ありがとうね~まってるからね~」


「ルイ! 帰ろう!」


「う、うん…」


 帰り道のルイの表情は曇っていた。


 おばちゃんの言ったことを考えているのだろう。ルイは俺を売る気なのだろうか?…やっぱりお金は大切だもんな。しかも俺は捨てられたわけではなく、自分からだし…俺の足が止まった。


「ヴァイス?」


 ルイが覗き込むようにして俺を見る。沈みかけの夕日にあたってキラキラしていた。


「俺の事…気づいたよな?…俺を引き渡す?」


ルイはまぶたを閉じるとゆっくりと首を──

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