十二.十二月三十一日(四回目)

 炬燵でぬくぬくとしながら白い小さなそば猪口に取った温かい蕎麦を啜る。やはり、あまり手間をかけたとはいえなかったけれど、鶏肉と人参、大根などをいれたそれは程好く出汁がきいていて、自分で作ったものではあるけど安心できる味だと思った。対面にいる一もまた、それなりに満足してくれているようで、無言ではあるものの、次々と啜ってくれている。その大きな手の中にあるこの男の手作りのそば猪口は、色も形も含めてまるで双子みたいな作りになっている。些細なものではあるけど、時折、その二つがとても愛おしく思えるとともになんだか染みるような感覚に襲われた。あのごつごつとした手が生み出した皿や家具などは、この家にあるものだけでもかなりの数に達しているけれど、この双生児のお椀には深い思い入れがあった。

 二年前に男の手で誕生したお猪口が空いているのをみとめて目を細めると、そのまま視線で、継ぎましょうか、と尋ねる。一は無言のまま頷くと、そば猪口を一旦置いてからその小さな藍色の器を持ち上げる。私は自分の手元にあるほぼ同じ形をしたお猪口に軽く目くばせしたあと、鼠色の地にやや暗い青が塗られた徳利を持ち上げると、男の手元の器に熱燗を注いだ。もちろん、これも男の情熱が傾けられたものである。そうしたあと、自分の手元に置いてある小さな器に注いだとあとに持ち上げると、お互いの手元にあるものをぶつけあった。気持のいい音を聞いたあとに口に含んだ酒は例の如く甘ったるかった。身体が芯から温まるのを感じたまま、意味もなく見つめ合った。この気難しげな顔との付き合いも長くなった。擦り切れるくらい見てきてはいたけど、両の瞳は、次第に眩しさを増しているように見受けられた。そんな男とともにぐだぐだと過ごすこの日々は、とてもかけがえのないものなのだな、とあらためて思う。年の瀬に落ち着いた気持ちでこの巡り合わせに誰にというわけでもなく感謝した。

 紅白が終わったあとのテレビからは淡々としたナレーターの声が聞こえる。おそらく画面には寺社の数々が映っているのだろう。着実に来年が近付いてきていた。

「なあ」

「なに」

「今年も色々あったけど楽しかったな」

「うん」

 短く答えたあと、小さく口元を緩める。男の方も薄く笑って答えた。とても安らかな時間だった。

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