八.十二月二十四日(三回目)

 クリスマスイブ。恋人を持つものにはとりわけ重要な日と認識されることが多い。しかし、その他大勢もただ指を咥えて待っているだけではなく、

「ねぇねぇ、木上きのうえさん。今日は沖石おきいし君と二人きりじゃなくていいの」

「あはは。やっぱり、こういう時はみんなで楽しむのがいいんじゃないかな、って思ってさ」

 私は友人に一とのことを曖昧に話しつつ苦笑いをする。

「なによ、その目は。彼氏のいないあたしたちを憐れんでるの。入って来たばかりの時は純粋だったのになぁ」

 カシスオレンジの缶を持って大袈裟に言い立てる先輩に軽く弁明しつつ、やはり、空気を読んで来るべきではなかったかもしれないと思いはじめていた。

 白桃サワーを口に含みつつ、逃げるように視線を逸らすと、ちょうど私と同じように友人達と話す一の姿が見えた。

「沖石さ、最近、付き合いが悪いんじゃねぇの」

 私と同じように友人に冷やかし混じりに詰め寄られてる姿を目にして、二人で決めたこととは言え少しだけ気の毒に思えた。しかし、当の本人はそれほど気にしていない様子で友人とともに銀色の缶ビールを片手に真顔で答える。

「悪い。こっちも色々とやることがあって。こっちも楽しいからできるだけ寄りたいとは思ってはいるんだけどな」

 申し訳なさそうな態度を取りながらも、その瞳には確固たる意志が見受けられた。一の男友達が缶を持ったまま、空いている腕を首に回す。

「色々やることだと。まったく、これだから彼女持ちは」

「そういう意味も、もちろんあるけどな」

 一は薄らと微笑んだあと、一気にビールを煽る。少しだけ血色の良くなった顔を、私はじぃっと眺めていた。

「おやおや、木上さんが熱心な目を向けてますよ、先輩」

「ほほ、相変わらずお熱いようで少し焼けますなぁ」

 後ろから茶化してくる先輩の声を聞いて、ようやく、今の自分の姿がどんな風に見えるのか理解する。

「やだなぁ二人とも、大袈裟ですよ。ちょっと見てただけじゃないですか」

 相手にするだけ無駄だとわかりつつも、ついつい口を挟んでしまう。案の定二人は、面白がったまま、私をおちょくり続けた。仕方ないな、と思って嘆息している最中、再び、ビールを口に含んでいる一と目があった。その口の中に広がっている苦みを想像して、よく飲めるな、と思った。

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