七.十二月中旬某日(三回目)
「どうしたんだ舞。ぼんやりとして」
目を開けると、一が呆れ顔で私を見ていた。まだ働ききっていない頭を軽く振りながら辺りを窺うと、右側には生協と食堂が入っている四角い建物があり、左側には背の高い木々に囲まれた喫煙スペースがあった。
そこでようやく、ここが大学なのだと理解する。日の傾きと空気の冷たさから判断するに、冬の夕方より少し前だろう。なんか、この風景に既視感を覚える。って、当たり前か。いつも、通っている道なんだし。
「大丈夫だよ。それより、何の話だったっけ」
一は本当に大丈夫か、と問いたげな目を向けたあと、一転して照れ臭そうに丸い鼻の先端を人差し指で掻いた。
「俺の作った家具がさ、知り合いの展示会に飾ってもらえるのが決まってさ」
「良かったじゃない」
話を聞いた瞬間に目が覚める。きっと、つい先日まで作っていたやつだと理解する。夜中にスタンドを付けて作業していたのを思い出す。
「喜んでくれているみたいだな」
「うん。私の好きなものが認められるのは嬉しいし」
よくよく、思い返してみると、一をいいな、って思ったきっかけも、サークル室のパイプ椅子に座って熱心に木をカッターで削っているのを見た時だった。変なの、という想いと、その真剣さに打たれたのがまるで昨日の出来事みたいに思えた。
「そう満面の笑みで断言されると、それはそれで恥ずいんだが」
「いいじゃない。誉めてるんだから」
そう言いながら一の腕に抱きつく。ごつごつとした腕はバイトの賜物か、もしくは職人に似た気質の表われか。知識の少ない私には判断しかねた。
「そうなのか。そう言ってもらえるのはすっごく嬉しいけど、俺なんかまだまだだからさ」
そう語る一はなぜだか遠い目をしている気がした。その輝きはまるで太陽みたいで、少しだけ眩しく思えた。
「今日は盛大に祝ってあげるよ」
「大袈裟だよ。てか、そう言いながら俺の奢りなんだろ」
呆れ顔をする一に私は舌を出して笑いかける。そうしながら、どんな摘みとお酒を買おうかと考えた。
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