三.十二月三十一日

「なに、これ」

 我が愛しの下宿の畳部屋。紅白の男性演歌歌手をBGMにしながら、私は炬燵の上を指差して震えていた。そこには二つの円盤状のインスタント食品がソースの香りを漂わせている。一は怪訝そうに首を傾げるだけだった。

「なにって、見てわからないのか。UFO」

 さすがにこの国で二十年近く生きてはいないので、それくらいはわかる。問題はもっと根本的なところにあって、

「なんで、UFOがここにあるの」

 信じられないし信じたくなかった。しかし、想いとは裏腹に大晦日、年越し数時間前、料理、という推理材料からある一つの仮説が導き出された。私の気持ちをどれだけ理解しているのか、一はボケっとした顔をくしゃりと歪めた。

「言っただろう。年越し蕎麦は俺に任せとけって」

 予想通りの答えが返ってくるのと同時に、頭が急激に冷えていくのがわかった。実家に帰らずに下宿に残ると決めたあとの相談、私よりもちゃらんぽらんな一がなにかを引き受けた時点で疑うべきだったかもしれない。料理なんかできるんだ、と他人事みたいに感心している場合ではなかった。バイト帰りにすぐにできるから、と言われてようやく変だと気付いたのだから、我ながらボケている。

「おおい、どうした。もしかして、アレの日だったか」

 最低な考察とともに一応、心配していると思しき素振りを見せる一の言葉に頭が痛くなってくる。思いきり睨みつけたあと、再び卓袱台の上に乗る二つの円盤を指差す。

「これが年越しそばって、舐めてんの」

 その台詞のなにが引っ掛かったのかはわからないけど一は少々むっとした顔をする。

「舐めてると言われても、俺の家は毎年これだし」

 他の年越しそばなんてあるのか。そんな風な目線を送ってくる一を見て、からかうため、という可能性が消える。なるほど。こういう、家もあるわけか。勉強になる。

「やっぱり、なんかおかしいのか」

「もしかしたら、私の方がおかしいのかもね」

 真顔で問いただしてくる男の態度を見て思いきり脱力する。時には、こういうことだってあるだろう。

「なんだよ、それ。わけわからん」

「私もわけわかんないよ」

 ソースの匂いを嗅いで微妙な気分になりながら蕎麦を啜る。テレビからはフォークギターの音が聞こえていた。

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