四.




何だ、漁船も帰ってこないうちから騒がしいと思ったら、余所からまたひとが来てたのか。

ここ最近ひっきりなしだな。



それで俺に何の用だ?

……挨拶なんかいい。地主の許可がいるもんでもないんだから、勝手に調べてくれ。



仕様のない。使用人に茶を持ってこさせるからそれを飲んだら帰ってくれ。

悪いが、朝から気分が良くないんだ。

わざわざこんな田舎まで来て妙な病気を土産にしたくはないだろう。



それで、何だ、例の屍の話か。

お渦様? もうそんなところまで聞いたのかよ。じゃあ、俺が話すこともますますないな。


南蛮だがどこだかの作った屍なんぞ、こんな辺境に流れ着くはずがない。万一来ても引き上げる前に波と海底の岩でバラバラだ。


何、じゃあこう言いたいのか。お渦様が例の屍だと。

まさか。

お渦様が一体いつの話がわかってるのか? 俺の曾祖父も生まれてない頃の話だ。



最初の、って? あの神主の爺……金掴ませてやってるのにろくでもないことをべらべらと。


お渦様っていうのはな、いいか。海に落っこちていかれた、ただの流れ者だ。

どこの川でも海でも溺れかけて助かったのに、すっかり馬鹿になっちまったって話があるだろう。それだよ。


誰もそんな阿呆の面倒なんぞ見たがらないから神ってことにして、村ぐるみで心ばかりの世話をしてやるだけのための口実さ。



いつの時代でも海に落ちたり船がひっくり返ったりして、そうなる奴はいるからな。そのたびにそいつらをお渦様と呼んだだけさ。



親父は……戻らなかった。物狂いを崇めて馬鹿らしいと嫌ってたからな。馬鹿になって戻るくらいなら上がってこない方がマシだと思ったんだろう。


お渦様だけじゃなく親父は神だ仏だも嫌っていたから、海に落っこちたとき、そのまま地獄にでも引き込まれたかもしれん。

この世以外の場所に地獄があればだがな。



さぁ、もうその茶も冷めただろう。飲んだら帰ってくれ。

話して疲れたから今日はもう寝たい。

崖から落ちないように気をつけな。

案外お渦になった方が気楽で過ごしやすいかもしれんが。


俺は平気で歩いてるのにって? 誰がそんなことを。また爺いか。

まったく、援助をしばらく打ち切ってやるか。


何のために崖の淵なんぞ歩いて回るのかって……。



死ぬためさ。

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