第20話 親愛なるオリヴィアへ
親愛なるオリヴィアへ
もう届いているか届いていないかなんて気にしないであなた宛てで書くわね。
コカ・コーラの瓶の素材もデザインも、ずいぶん変わったわね。
昨日、未開封のコーラの瓶が流れ着いたの。
この手紙を入れているのとは別の瓶よ。
未開封のコーラね、賞味期限が二〇二〇年ってなっているの。
ねえオリヴィア、今って何年なのかしら?
大いなる種族のみんなに訊いても、イギリス人とは使っているカレンダーが違うからわからないとか言って教えてくれないの。
わからないなんてウソよ。
あの人たち、中国や中東や、南米の占星術用のカレンダーまで研究してるのよ。
それなのにどうして隠すのかって言ったら、やっぱり――
わたしが思っている以上に――
わたしが知ればショックを受けるぐらいに――
わたしがアトランティスに来てから、長い時間が流れてしまったってことなのかしら――
ねえオリヴィア、わたし今までコーラの賞味期限なんて気にしたことなかったんだけど、さすがに九〇年ってことはないわよね?
わたしがアトランティスに来たのが一九三〇年で、もしも今年がこのコーラの賞味期限だとしたら、わたしもオリヴィアも一〇〇歳を超えちゃっているのよね?
ああ、でも、もしかしたらコーラって、五〇年ぐらい持つものなのかもしれないわね。
だとしたらこのコーラが作られたのは遅くても一九七〇年で、わたしたちは五八歳ってところかしら?
五八歳。
もう孫までいるような年かしら?
ねえオリヴィア、わたしたち、いつか誰かのお嫁さんになっても、もっと年を取っておばあちゃんになってもずっと友達だって話した日のこと、覚えてる?
五八歳ならまだいいわ。
でも一〇八歳ならオリヴィアは、もうこの世にはいないのかしらね――
この手紙も、届くわけが――
わたし、決めたわ!
文字にしたことで決心が固まったの!
アトランティスを抜け出して地上へ行く!
見張りは厳しいし海は広くて陸まで遠いけれど、わたしにはクトゥルフの力があるんだもん、きっとへっちゃらよ!
ハワイの人たちは前に怖がらせちゃったから、今度は逆の方角を目指してみるわ。
そうするとニホンに着くことになるのかしら?
それも楽しみね。
ニホンに着いて、今がいつか調べて、このコーラがまだ飲めるようならオリヴィアと二人で飲みたいわ。
もしも今が二〇二〇年を過ぎているなら、わたし、このコーラを思いっきり振ってから蓋を開けて中身をまき散らしてやるわ。
そして――そしてね――
もしも時間が流れすぎていて、パパにもアデリン叔母さまにもオリヴィアにももう逢えないのなら――
ああ、神さま! わたしは今、とても恐ろしいことを考えています!
まるでクトゥルフの肉体がわたしの心を侵食しているみたい!
海が汚されて悲しいのに、自分がニンゲンじゃなくなってしまって悲しいのに、この上にオリヴィアがすでに死んでいるなんて悲しみまでが重なったら、わたし――わたし――
クトゥルフがやろうとしていたことを、わたしがしてしまうかもしれないわ――
キャロラインより
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