第10話 地元の双子の老婆の証言

マーガレット「そのとき海には波ひとつ立っておらんかった」


デイジー「いやいや、大荒れだったぞい」


マーガレット「わしらはどちらも嘘をついてはおらん。

 わしらはだいたいいつも二人一緒じゃったが、あの日はたまたまケンカしとって、わしはホレ、あの大岩のこっち側、妹はあっち側で貝を取っておったんじゃ」


デイジー「わしのほうにだけ大波が来おったんじゃ。

 おかげでわしだけ死んでしもうた」


マーガレット「死んどるんに何であんたまで年を取るんかのう」


デイジー「双子じゃからのう。あんただけフケちゃ、かわいそうじゃろう」


マーガレット「フンッ。余計なお世話じゃい。

 …………。

 わしゃ岩の向こうがそないになっとるとは夢にも思わんかったんじゃ。

 それどころか岩のこっち側ではこないにみょうちきりんなことが起きておるんに、妹はノンキにしておるもんじゃと思っとったわい」


デイジー「わしゃああんたの名を叫んで助けを求めとったし、聞こえん距離ではないはずじゃがのう」


マーガレット「ほんまに聞こえんかったんじゃい。

 都会から来たお偉いセンセは、じくーがゆがんどったとか言っとったかいのう」


デイジー「フンッ。どいつもこいつもわけのわからんことばかり抜かしおってからに」


マーガレット「とにかくじゃ、あの日この浜辺におったのは、わしと例のキャロラインっちゅー娘さんだけじゃった。

 わしは貝を取るんで忙しかったし、娘さんは海の一点を見つめたり天をあおいだりをくり返しとって、わしのことは目に入っとらんようじゃった。


 ……いきなりじゃったよ。

 ソレが現れたのは。

 波ひとつ立たんかったで、蜃気楼かと思うた。

 あない奇妙な蜃気楼はあとにもさきにも見ておらんがのう。

 あの子の親父さんはいまだに娘さんを捜しとるらしいの。

 ここいらのやつらのほとんどは、娘さんは波にさらわれたんや言うとっが、そりゃ間違いじゃ。

 あの日、波で死んだんはデイジーだけじゃ」


デイジー「まったくひどい話じゃよ」


マーガレット「海からのう……まさに例のほら穴のある辺りからじゃ……

 巨大なタコの足のようなものが生えてきおったんじゃ。

 目を剥くような勢いで飛び出したのに、海は凪いだままじゃった。

 その足が娘さんを海ん中へ引きずり込んだんじゃよ。

 幻なんかではないぞい。

 見たんはわしだけではないんじゃ。

 みんな狂人扱いされんのが嫌で、見とらんやつの前では黙ってすましとるが、おかにおったもんが四人ばかり、わしと同じもんを見ておる。

 わしを入れて五人。

 この中でしかこの話はせん」


デイジー「わしも一応、見ておるんに、輪っかに入れんくて寂しかったぞい」


マーガレット「もう二人ばかりそっちへ行ったじゃろがい」


デイジー「まだ足りん。

 あんたも早うこっちへ来いや。

 なんなら記者さん、あんたもさ」



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