第3話 ダイビングショップのオーナーの証言

「これじゃよ。警察から帰ってきたのは。

 アクアラングが開発されるのは一九四三年。

 これはもっと古い型じゃ。

 当時としては最新式じゃったがね。

 今の人にゃ信じられんかの。

 こんなヤカンに窓をつけたようなモンをかぶって海に潜っとったなんてのう。

 ヘルメットは真鍮で、胴体はゴムを塗った布じゃ。

 そんでこのホースとポンプで地上から空気を送っとったんじゃ。


 足ヒレはまだ発明されとらんでな。

 この時代は水中で浮かんように、重りの入ったブーツをはいとったんじゃ。

 重り入りブーツが見たけりゃ博物館に行っとくれ。

 こいつの膝から下は、あれから帰ってきとらんよ。

 こいつもあんな事件でこんなボロボロになっておらにゃあ、博物館に飾られとったかもしれんのう。


 借りに来たのは女の子二人じゃったよ。

 ご存じの通り。

 警察にも、記者さんの同業者連中にもさんざん話してきた通り、な。

 一方はほんの子どもじゃったし、姉のほうもまだまだ子どもじゃった。

 妹のほうに、自分に合うサイズはないかとしつこく訊かれたが、そんなもんはないでな。

 結局、大人用を二人分、借りていったよ。


 伝票ならあんたの同業者に何年も前……何十年も前か……そいつに貸したっきり帰ってこなかったが、書いてた名前は覚えとる。

 キャロライン・ルルイエじゃ。

 間違いない。


 あんたの同業者の中にゃ、ミス・ルルイエがサメに襲われて体をバラバラにされたなんて記事を書いとるモンもおるが、そいつらはワシんとこに取材に来ておらん。

 ちゃんと見ぃ。

 潜水服の、ぶったぎられた手足の先を。

 しっかりと塞がれとるじゃろ。

 この糊みたいなモンの正体が何なのか、お偉い学者が何度調べてもいまだにわからんがの。


 これは子供の手足の長さじゃ。

 あの姉妹はルイーザ・ルルイエの手足に合わせて、貸し出し用の潜水服の手足をぶったぎりおったんじゃ。

 そうして二人で海に潜って……

 そのまま魚にでもなったんじゃないかのう?




 ほう、お前さん、笑わんかったな。

 なるほど。わかっとるんか。海の底に棲んどる、魚にも人間にもなりきれんやつらのことを。


 ……どこで知った?


 ……やつらに会ったことがあるのか?


 ……記者さん、あんた、まさかやつらの……


 ……そうか……


 …………そうか…………

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