ルルイエ編
第1話 ヘンリー・ルルイエへのインタビュー
「第一報はモードリン・アンダーソン夫人からでした。
娘と孫が旅先で、どうやら事故に遭ったらしい、と。
直前に私はキャロラインがアメリカで書いた手紙を受け取っていました。
こちらがそれです。
娘から私への最後の手紙です。
私の娘と妹たちはマサチューセッツ州に居るはずでした。
この手紙からはキャロラインが危険な目に遭っているとは感じ取れませんでした。
ところが消印にあるフェブラリータウンなる町の場所はいまだに特定できず、キャロラインの足取りはマサチューセッツから遠く離れたハワイで消えました。
手紙の内容はどうということのないものです。
パパの出生の秘密、というのはなかなか衝撃的な文言ですがね。
ですがこれはキャロラインの失踪には関係ありませんよ。
私の実の両親が事件に関係あるのなら、キャロラインより先に私が失踪するはずでしょう?
詳しいことは、キャロラインが友人のオリヴィア・ジョーンズ君に宛てた手紙に書かれていたのを、オリヴィア君のご両親から見せていただきました。
私は母パトリシアの実の子ではなく、不運な駆け落ちカップルの遺児だった。
だから何です?
むしろ納得です。
私は生前の母とは仲が良くありませんでしたが、この手紙を見てからようやく母に感謝できるようになりました。
あの人は立派な人だったのです。
私を育てたのも。
サン・ジェルマンへの愛を貫いたのも。
ああ、記者さん。キャロラインが荷物を持ってロンドンの我が家の玄関を出るまで、私はキャロラインが寮へ戻るものとばかり思っていたのです。
アメリカへ行くのはルイーザとアデリン君の二人だけだと。
アデリン君から求められた旅費は二人分にしては多すぎましたが、それもアデリン君らしいですし、子守り代とすれば妥当だろうと。
ドアの前で振り向いたキャロラインは、キャサリンに……あの子の母親にそっくりな意思の強い目をしていて……臆病な私には止められなかった……眩しすぎて……
キャサリンは私の母を……パトリシア・ルルイエを……気味悪がりながらも決して見放そうとはせず、常に気遣っていました……
モードリン・アンダーソン夫人から聞かされた話はこうです。
アデリン君がハワイ諸島のどこかの海岸で保護されたが、正気を失っているらしい。
キャロラインとルイーザの行方はわからない、と。
早朝、人気のない海辺で絶叫をくり返していたアデリン君を、通りすがりの観光客が発見し、通報。
地元の警察がアデリン君の写真を手に島内のホテルを巡り、宿泊者名簿から確認してアンダーソン邸に連絡したわけです。
私とモードリン夫人は取るものも取りあえずハワイへ急ぎました。
海難事故。私たちはそう考えていました。
それは最悪の想像でしたが、今思えばもっとも穏やかな想像でした。
病室でアデリン君に面会して、旅立った日とは別人のようになってしまったアデリン君の様子に私は、ルイーザが生まれた日を、キャサリンが死んだ日を思い出しました。
キャサリンの死因は心臓マヒでした。
ルイーザが生まれたあの日、屋敷に居た使用人の多くは狂ってしまいました。
そんな事実があってもなお、私はルイーザを異父妹だと信じていました。
母と、使用人の中の誰かの子だろうと。
それを私は世間体のために自分の娘としてきました。
ええ、ええ、本当はもっとずっと恐ろしいものなのだろうなと、頭をよぎることはありましたよ。
私は恐怖から目を背けてきましたよ。
だから何です?
たとえ直視していようとも、年老いた養母が分裂して作った新しい体だなんて、今だって私は信じていませんよ!
ああ神様、キャサリンの身に、アデリン君の身に、いったい何が起きたのでしょう?
ルイーザは何者なのでしょう?
そして何よりキャロラインはどこへ行ってしまったのでしょう!?」
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