第5話 ロサンゼルスでのアデリンの日記 1

○月○日


 映画館で、思わず声が出そうになった。

 いきなりスクリーンにアランの顔が大映しになったから。

 主役だった。役名はアーサー。

 驚きすぎてストーリーだとかは全然覚えていない。


 エンディングのテロップによればジョン・スミスという芸名だった。

 頭に“主演”って書かれていたから、これがアラン。


『恐怖の吸血ミイラ』のテロップはジョン・スミスだらけだった。

 アランだけでなく、他の俳優も全員ジョン・スミス。

 女優はジョアン・スミス。


 音楽も音響もメイクも衣装も。

 ジョン・スミス以外にはジョアン・スミスしか居ない。

 芸名というより偽名。


 そもそも、なにゆえ、ジョン・スミスなの?

 本名のアランのほうが、かっこいい。

 芸名ってもっと派手なのをつけるものなんじゃないの?

 本名だったらもっと早く見つけられた?

 イギリスに居ても噂ぐらいは届いて――



 ルイーザが、明日は別の映画館で同じ映画を観ると言っている。

 アタシもお供する。

 アランの姿をもっと観たい。

 今度はちゃんとストーリーも観ておかないと。


 主演俳優。

 目指していた場所に行けたのね。

 ずいぶん遠くへ。

 あれから何年?

 アタシは立ち止まったまま。

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