第12話 フェブラリータウンからの手紙 5

親愛なるオリヴィアへ


 最初に書いておくけど、わたしは正気よ。

 こう言うと余計に不安になるかしら?

 でも信じてと言うしかないわ。

 わたし、幻を見たのよ。


 ああもう! こんな書きかたじゃますますわたしがヘンになったみたいじゃない!

 ただの幻じゃあなくて、ルイーザが魔法みたいなことをしたのよ。

 それで今、ホテルの中を、パトリシアおばあちゃまとサン・ジェルマンおじいちゃまの幻が歩き回っているの。

 この町に来なかった、来られなかった、二人の幻。


 ルイーザが霧吹きで、ホテルの廊下や庭に水を吹いて回っているの。

 ほら、晴れた日に庭で霧吹きを使うと、小さな虹ができるでしょ?

 あんな感じに、霧の中に、おじいちゃまとおばあちゃまの若かりし姿の幻が現れるのよ。


 わたし、その霧を吸い込んじゃって。

 でもルイーザは、ただの水だから危なくないって。

 ただの水にこんな力があるわけないじゃない!

 霧吹きだって、普通のものにしか見えないのよ?


 わたしがそう言ったらルイーザは「あなたは“ただの水”の何をどれだけ知っているの?」って。

「あなたが日々飲んでいる“ただの水”は、当たり前に魔力を宿している」

「魔力のこもった品なんて、そこら中にあふれている。そうでなければこの惑星は、とっくに闇の力に喰い尽くされている」

「珍しくもないターメリックやコリアンダーを詰めただけのお守りでも、海の化物を退けた。あれらも力ある植物だ」

 ですって。


 ねえオリヴィア。

 ターメリックとかって、あれよね?

 あのお守りって、カレー粉だったの?

 カレーに入ってるクローブってスパイスが虫除けになるって聞いたことはあるけど。



 幻のおじいちゃまはとってもハンサムで、おばあちゃまも絵に描いたような淑女って感じ。

 わたしより少し年上ぐらいの新婚カップル。

「どう思う?」ってルイーザに訊かれて、そんな、魔法をどう思うかなんてって戸惑っていたら「美しいと思うなら黙って見ていて。そうでないなら向こうへ行って」って。


 ああオリヴィア、怒らないでね。

 魔法なんて異教の魔女が使う邪悪な力。

 それくらいわたしだってわかっているわ。

 だけどそれでもわたしはこの幻を、美しいと感じてしまったの。


 まあ、オリヴィアなら怒らないわよね。

 ほかのクラスメイトは卒倒しそうだけど。

 この手紙のことはみんなにはナイショよ!


 新婚の二人は、手を取り合って景色を眺めて、見つめ合ってキスをして。

 ルイーザが言うにはこれはただの幻で、理想を映しているだけなのだそうだけど。


 わたしもいつかあんな甘々な新婚旅行ができるのかしら?

 なんてね。

 こんなときなのにふざけてるって思った?

 わざとよ。

 こんな強がりでも言っていないとやっていられないわ。


 ああ神さま、異教の魔術に手を染めるルイーザをお許しください。

 どうかわたしたちをお護りください。

 オリヴィアも祈っててね。


キャロラインより

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