第13話 クリスマスの奇跡

 夜11時私は残業して帰るとはなさんがまだ起きていてくれて温かいおでんを出してくれた。大根が柔らかくて美味しい。しっかりだしも染み込んでとても体が暖まった。

 「はなさん、おでんもできるんだね。すごく美味しい。」

 「それは良かったです。作った甲斐がありました。」

 「ところでミィは?」

 「散歩してくると夕方しっかりご飯は食べてから出ていきました…。ご主人がいないのに勝手なことしちゃ駄目よと言ったんですが、気ままな子ですね。」はなさんは、少し怒ったように話した。

 それははなさんが来る前からだった。私も心配して最初は後をつけた時もあったのだが、公園のベンチで夜空をジーっと見上げたり、気がつくと周りに猫が何匹も集まっていたり彼女が猫だと思えば彼女の行動も理解できる。猫は集会とか散歩とかテリトリーの巡回とか色々あるんだろうと思いそのままにして帰りその後はミィの行動をあまり気にしなくなっていた。

 「猫だから気ままなんだよ。ハナさんみたいに、一人では絶対に外へでないタイプじゃないんだ。ほっといていいよ~。変なことはしないと思うから。」

 「そうですか?ご主人がそうおっしゃるならわかりました。」

 「ところでもうすぐクリスマスですね~」

 「クリスマス…はぁ~悲しいです。」

 「えっなんでクリスマスが悲しいの?」

 「友達が死んでしまった日なんです。あんなに元気だったのに。」

 「はなさんの犬の友達ってこと?」

 「はい…。彼は今でも近所の犬たちの間で英雄と言われ続けています。」

 詳しく話を聞いてみると、はなさんの近所に個人経営の内科病院があり、初老のおじいちゃん先生が一人で切り盛りしていたらしい。はなさんと同じくその病院にも看板犬がいてそれが親友のゴロウだった。ゴロウは、病院の入り口に座り患者が来るとうるさく吠えることもなく静かに待合室にふせをして見守っていたそうだ。そして、処方された薬袋を受付から玄関まで口に咥えて渡すのが仕事だった。その従順さと健気さに患者さんからの絶大な人気と信頼をゴロウは獲得していた。年末になると、各所からハムや高級なドックフードなどが毎年病院へ持ち込まれたという逸話もある。

 ある年、先生の体調が思わしくなく風邪の多い冬の季節だというのに病院は閉まっていた。年も80近い先生の体調は思わしくなかったので、大学病院に入院していたのだった。ゴロウはというと看護婦の家に先生が入院している間は世話になっていて、いつも先生の帰りを待っていた。しかし、クリスマスが押し迫る中、先生の病状は悪化し昏睡状態に陥ってしまった。誰もが先生の死を覚悟していたが、クリスマスの朝に不思議なことが起きた。先生がすっかり良くなり目覚めたそうだ。これには医者も目を丸くしてこんな症例みたことないと驚いていたそうだ。先生が目覚めた朝にゴロウは段ボールの中で静かに息をひきとっていた。まるで自分の命とひきかえに先生を救ったようだった。

 ゴロウの死はその後も語り継がれ、先生の命を救った犬とされ立派な犬だと称賛されている。

 私ははなさんからこの話を聞いて動物の純粋さと素直さに心が洗われた。


 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女薬 山葡萄 @yamabudo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る