第10話 店主の話
私は、その後またあの薬局へ出掛けた。夜限定かと思われた薬局は夕方もやっている。
ガラガラ…
戸を開けると店主がにこやかに接客をしている。「うんうん。咳にはこれが一番。毎度ありがとうございます。お大事に。…あっあんた、この間のお客さんじゃない!」
私は他に客がいないことを確かめると店主に今までの経緯を簡単に話してみせた。
「うーん。そりゃ大変だったねぇ~。いやね、私としてもあの薬は昼間は売らないの。夜のみ売っていてね。しかも、変なやつには売らない。だいたい私見ればどんな人間か見抜けるから。お客さんには、安心して売れたよ。でもそうか~、猫でぼやね?だいたいはそこまでにはならないよ?お客さんの猫料理がものすごい下手なんだよ。これからは、お客さんが料理するんだね?」
店主は、滋養強壮ドリンクを私に手渡し自分もドリンクの蓋をあけてグビグビ飲み始める。
「…その、性行為目的で彼女薬を買って行くお客さんがいてね?後から家出してしまったと苦情を言われる始末で、そんなことしたら逃げ出すの当たり前。気持ちはわかるけど現実は思うようにはなかなか行かないもの。本物の人間同士じゃない。人間と動物だからそこが商売やってて難しいというかね…」
「家出してしまった動物はどうなるんですか?」私は思わず質問した。
「家出した動物は、大抵食事をしないか残飯を漁るようになる。説明書に人間の時は人間の食事をと書いてあったのは、彼女薬を飲んだ動物の脳が動物の生活に適応させようと命令を出すため、彼女薬の効果がなくなってしまう。したがって翌日には動物に戻ってしまうということなんだよ。だから、人間の時は人間らしい食事をさせなきゃいけない。」
脳をだます薬なのか…。確かに人間になっているミィは、ペットトイレもカリカリも興味をもたない。
私は、薬屋を出るとうす暗くなる道をとぼとぼと歩いていた。電信柱に街灯が灯り、少し離れた電信柱の下に柴犬がお座りをしてこちらを見ていた。
近づいてみると、段ボールには「拾って下さい」と書いてある。どうやら捨て犬のようだ。私はヘッヘッヘッヘッと舌を出す柴犬の脇を静かに通りすぎる。
うちにはミィがいる。無理だ…ごめん。
しばらくすると、後ろからチャッチャッチャッと爪の音が聞こえてきた。
ついてきてる。これって、ミィの時と一緒じゃないか!!
私ははや歩きをしてみたが、柴犬は余裕綽々で距離を離さない。
これは参った。どうしたらいいんだ!
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