第9話 ぼや事件
その日は、ミィが朝から台所に立ち何かをしていた。
私は休日で、朝に料理はやらなくてもいいよと言ったのがまずかったようで、ミィはむきになって「大丈夫だもん!」と言ったきり台所に向かって行ってしまった。
そして先程からガガガガゴゴゴゴというけたたましい音と、パリーンという皿が割れるような音がしている。
おそるおそる台所を覗いてみると、水中メガネをかけたミィが野菜をまな板で切っている。両手で包丁を持ちながら、それを高く振り上げながらまな板に勢いよく振り落とす。
タァーーーン!! ボト……
野菜がまな板から床に落ちる。
ミィはそれを拾い、またまな板に乗せる。
タァーーーン!! ボト……
多分今ミィに注意をしたら、膨れっ面になってますます「できるもん!!」とか言い出すに決まっている。
怪我もしていないようだし、ここは見守ることにしよう。
私はリビングに戻り待機することにした。
外はよい天気で洗濯物がベランダでそよそよと揺れている。窓を開けると近所の子供が遊ぶ声がする。
私はクッションに頭をおき、心地よさのなかで眠ってしまった。
夢を見ていた。夢に出てきたのは、高校の時の初恋の人だ。確か片想いで終わったはずなのに夢では付き合っていて、公園のベンチに隣り合って座っている。彼女は、目が合うと頬を赤らめて笑っている。私は心臓の音が聞こえるほど緊張していた。彼女と向き合うと彼女は目を閉じた。これって、してもいいということだよね?ようし…私は彼女の唇に近づく。
柔らかい………ん?焦げ臭いぞ?何で彼女が焦げ臭いんだ?
ん?なんだかどんどん臭くなってきてる。
咳き込みながら目を覚ますと部屋中が煙だらけだった。台所に行くと、フライパンから火柱が立っている。
これはヤバい。
咄嗟に消火器を持って、フライパン目がけて消火する。消火と同時にものすごい煙で、目の前が見えなくなる。
ミィは冷蔵庫に顔を突っ込んでいる。
徐々に炎は小さくなり、消火されたフライパンとその周辺は真っ黒になった。
これは、ミィは悪くない。
私がついていながら起こしてしまったぼやで居眠りをした私がもう少し気を付けていれば良かったのだ。
ミィは、しょぼんとして私を上目遣いで見てきた。
すると、ミィの目から涙が溢れ私に飛び付いて泣き始めた。
よほど怖かったのだろう。
しばらく私とミィは抱き合っていた。
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