第9話 観察中のメモの内容

キーンコーンカーンコーン。

放課後の部活を終える知らせの鐘が鳴った。

それと同時に花澤はメモを書き終えた。


「花澤、何をメモしてたんだ?」

俺が野球部の観察中に疑問に思っていたことを聞いた。

花澤は黙って、先ほどまで書いていたメモを俺に見してきた。

そのメモには数字の1から12の番号が縦に書かれており、上にはN、W、S、Eが書かれている。そして各番号の横にはN、W、S、Eの列に合わせて正の字が書かれていた。正の字は各番号によって数が違った。


俺はそのメモを見てから花澤に問いかけた。

「これは何を表してるんだ?」

「一人一人の見た方向の回数だよ。すごかったのは3番の人だよ。西の方向を82回も見てたんだもん」

花澤は俺の問いに簡単に答えて、自分がメモした感想を言ってきた。


今の花澤の言葉からメモのすべてのことが理解できた。1から12の番号は野球部の背番号で、N、W、S、Eの4つのアルファベットは東西南北を表している。そして正の字はその東西南北の方向を見た回数のことだとわかった。


「すごいですよね。3番の人以外は多くても正の字の数が2つくらいなのに、3番の人だけは正の数が……」

花澤が不思議そうにブツブツ独り言を言っている。




見て情報を得ようと言われて、人の視線を見るとは。人間観察が得意な俺からしても、なかなかいい考えを持っていると思う。

何よりうれしいのは、花澤のやる気だ。茅野を助けたいという気持ちが観察中伝わってきた。メモを見ればそれは明らかだ。


俺は花澤への感想を心の中で言った後、メモの内容について考えた。

でも西の方なんて何にもないけどな。あるとすれば山だけだ。

俺のようなボッチだったら現実逃避に山を眺めるのは普通だが、イケイケの陽キャは山なんて緑の塊としか思わないから見ないだろう。


俺が考えていると教室のドアが開いた。

ガラガラガラ。

「花澤」

ドアを開けた人物は教室に入ってくるなり花澤の名前を呼んだ。

その人物は鈴木先生だった。


花澤は鈴木先生の顔を見るとハッと何かを思い出して、

「荻原君ごめんなさい、私これから用事があるの」

と俺に言ってきた。

「ちょうど鐘も鳴ったし、今日は終わりにしよう」

俺は花澤に言った。

「じゃあ、また明日ね」と言い、花澤は教室を出て行った。


教室には俺と鈴木先生だけになった。

鈴木先生は俺の顔をニヤニヤ見てきた。

「なんですか?」

「いやー、なんか花澤と会う前までとは別人のようだなと思ってな」

「そんなことないですよ。気のせいですよ、気のせい」

鈴木先生と雑談のような会話をした後、俺は生徒指導室に自分の荷物を取りに戻り、家に帰った。







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