第3話 お願いの理由

鈴木先生が生徒指導室を出て行ってから5分経過した。だが、その5分間ずっと沈黙が続いている。


それもそうだ。目の前にいるのはきれい系の女の子なのだから。

普通の女の子相手でも話すのは苦手な俺なのだから、花澤のようなきれいな女の子相手に会話をするのは不可能だ。


よって今聞こえる音としたら、外から聞こえる鳥の鳴き声だ。

「ピィーー」

この鳴き声の鳥は何だろうと俺は考えていたら、突然花澤が口を開いた。

「荻原君」

突然のことで俺は戸惑ってしまった。

「え、ん、なんだ」

「なんで黙ってるの?」

「いや別に話すことないかなと思って」

俺は素直な気持ちを言った。

花澤はすこし残念そうに落ち込んだ。

俺はそんな花澤を見てなにか話題を作って話しかけないとと思い、絞り出した。

「なんでクラスに馴染ませてほしいんだ?」

花澤は少し顔を下に向けた。


そして俺が聞いてから10秒が経った頃、花澤が少し寂しそうな表情で口を開いた。

「私ね、心臓が悪くて中学1年の6月から高校1年の2月まで入院してたの。今も絶好調とは言えないけど、お医者様が学校に通えるくらいはできるところまで回復したと言ってくださったから今学校に来れてるの。」

「お前そんなに長い期間学校に通えなかったってことは、友達とかも」

「そう、いない」

花澤の目から涙が少し流れてきた。

「私入院中で読んでいた本とか、ドラマで学校に憧れてて、今日学校に来れることを楽しみにしてたの。でもいざ教室に入ってみると、全然話しかけられなくて、手とか足とか震えてきて怖くなって・・・」

花澤の目からはたくさんの涙が流れ落ちていた。


俺はそんな花澤の姿を見て思った。

花澤はこんなに学校に憧れていたのに、実際学校に来てみると自分のいられる場所が無くて絶望したんだ。

俺は今の花澤みたいな状況を知っている。だから鈴木先生も俺に頼んできたんだと分かった。

俺はその状況を知っているからほっとけない。

「俺がこれからの2年間お前の憧れていた学校生活を実現してやる。」

「ほんとに?」

「あぁ、ほんとだ」

花澤は俺の方に顔を向けて笑顔になった。

俺は今の花澤の表情をこれから忘れないだろう。

花澤の表情は雨が止んだ後のひまわりのような輝きをしていてまぶしかった。


「じゃあ改めてこれからよろしくお願いします」

「おう、まかせろ」

俺と花澤は笑顔で言葉を交わした。




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