第4話 ネガティブアクター
「おつかれさまでしたー」
16時、一足先に上がりだ。これからブリプロのイベントの打ち合わせがある。
2ヶ月前から始めた梱包作業のバイト、周りはおっちゃんおばちゃんばかりなので、俺の事を知ってる人はいない。派遣の担当者には俺が役者なのは話してるけど…。
あまり深掘りされるのも好きじゃないし、自分から話すなんてとんでもない。このままバレずに、穏やかに過ごしたいな…と思っていた矢先だった。
「あ、小鷹くん」
よく話しかけてくれる小太りで白髪のおっちゃん…金沢さん…だっけ。が、話しかけてきた。良い人なんだけど、この人話長いんだよな…。
「はい、なんでしょう」
「野暮な事聞くんだけどさ…これって…君?」
そう言って一枚のCDを取り出すと、裏面を指差して俺に見せてきた。
『偽りのCherry〜今宵ベッドで抱きしめて〜ドS上司×純朴新卒社員BL』
西園寺麗夜(CV大庭秋紀)
有栖川累(CV小鷹礼人)
おいジジイなんでこんな物騒なモン持ってんだコラ。ていうか今出すか、俺が上がろうとしているこのタイミングでなんで出すんだ。休憩時間とかに聞けよ。うわ、みんなめっちゃ見てんじゃん。みんなめっちゃこっち見てんじゃん。
「同姓同名の人違いですね」
「あ、そうなのぉ?いや孫の机の上に置いてあったのたまたま見つけてねぇ、同じ名前だったからてっきり小鷹くんだと思ってねぇ〜、気になって気になって…本人に聞こうと思って黙って借りてきちゃったのね〜わははは」
孫の人権が…。
「あ…。それ、ちゃんと元あった場所に返しといてあげてくださいね…」
「ん〜、そうねぇ〜。人違いか〜!そうかそうか〜」
「あ、の、もしかして聴いたりとか…してません…?」
「あー、デッキのねぇ、使い方がわからんのよ〜」
「よかった…」
「いやぁ、スッキリした!じゃあお疲れね」
「はい…お疲れ様です…」
危ないところだった…。
ああ、間違いなく俺だ。BLCDの仕事くらい…そりゃ、ある。あるさ。悪いか。
別に、そういうのに偏見あるわけじゃないし…。ただ…、バイトとはいえ職場の人間に喘ぎ声を聴かれるのはさすがにしんどいだろう…。
ああ、孫…じいちゃんが勝手に自分のBLCD持ち出したなんて知ったら発狂するだろうな…かわいそうに…。どうか金沢さんが孫が気付く前に元あった場所に返しておくことを祈るばかりだ。
たぶん無理だろうけど…。
某オフィス
「ぶははははははははは!!!!」
「笑い事じゃねぇよ!マジで俺の人権剥奪されるかと思ったわ!」
先程の出来事を同期のノリ…大庭秋紀に話すと、腹を抱えて大笑い。
「良いじゃねぇか!これも立派な仕事だろ?胸張って俺ですつっときゃ良かったんだよ」
「お前、そんなこと言ってCD聴かれたらどうすんだよ…」
「そんときゃそん時だ」
「お前は良いよな、攻めてる側だもんな」
「いや俺も割と恥ずい事言ってっから」
「…難しいよなああいうのは…」
「そうだな…、感情が掴みきれねぇ…」
ノリは事務所の同期で、歳も近い…まぁこいつのが歳下だけど…。デビューした頃から割と順調に人気で、アニメにも結構出てるし、喋りもうまいからピンでラジオ番組も持ってる。活躍してるけど気取ってない、純粋に良いやつだ。
「でもよ礼人、知ってるか?俺らファン界隈じゃできてんじゃねぇかって噂になってるらしいぜ?」
「おい嘘だろ勘弁しろよ」
「まぁそういうニーズかねぇ…俺もお前も顔は良いからなぁ!わはは!」
こいつは…、またすぐにおちょける。
「自分で言うなよ…」
「冗談だっの!客観的に見りゃ俺もお前も中の下の上くらいだ、長身で騙くらかしてんだ」
「現実突きつけられるとそれはそれでヘコむ…」
「需要があるならビジネスホモ決め込んでコンビ売りもアリだな…」
「お前は別にそんなことしなくても人気あんじゃねぇかよ…俺とは違って…」
短髪で爽やかスポーツマン風の見た目に、178㎝の長身。そのくせ少年のような顔でニカッと笑う無邪気な性格。そりゃまぁファンは多い。俺とは大違いだな…なんで俺こいつと仲良いんだろ…。
「礼人さぁ…そうやって自分を卑下すんのやめた方がいいぜ?お前のファンにも失礼だろ」
「…そんなこと言ったって…どうしたら自信なんてつくんだよ」
「逆になんでそんな自信ねぇんだよ…」
なんでだろうな…まぁたぶん…俺の根っこはいじめられっ子だから…その精神の奥底に染み付いた部分が抜けきらないんだろ…。なんて、こいつに言ったってわかんねぇだろうが…。いじめなんて縁遠そうだしこいつ。
「まぁ、根本的にネガティブなんだよな俺…」
「暗ぇ!!暗ぇよ!!きのこ生えんぞ!上げてこうぜ!!な?これから楽しい楽しいイベントの打ち合わせだぜ???」
「うん…」
それから10分ほど経って、メンバーとスタッフが集まり、打ち合わせがはじまった。
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