第3話 推しに認知されたら死ぬタイプのオタク
日曜日
都内シェアスタジオにて「ブリプロソロ衣装実装組併せ」
併せっていうのは同じジャンルのキャラクターを複数人集めて行うコスプレ撮影の事。
主催が知り合いのレイヤーに声をかけたり、SNSでできる人を募集して人数を集める。
スタジオを貸し切って大人数で行う「大型併せ」っていうのもあるけど、今回はシェアスタジオなので4人。
で、この併せの企画者、要するに主催が私の友人にして私をコスプレの沼に引きずり込んだ張本人。
天野 柊子[あまの しゅうこ]27歳
CNノエル
170㎝の長身とモデル並の顔面を持つ、頭と生活力以外は完璧な女だ。
現に最寄駅に9時半の待ち合わせだったにもかかわらず、9時40分を回ろうとしてもまだ現れず連絡もない。
ピロン♪
噂をすれば、柊子からメッセージが…
『やべぇことが起こった』
…なんだやべぇことって。
柊子の遅刻なんて日常茶飯事だが…。まさか事故にでも巻き込まれたのだろうか…。
『何』
『後で話すけどまじでやべぇ』
『早く来い』
『ごめん』
『今どこよ』
『駅のトイレ』
『うんこかよ』
『ちげぇわ』
『いやうんこはおめぇだわ』
『どゆこと!?』
『いいから早よ来いや』
「人に向かってうんことは何か」
「集合時間過ぎても連絡もよこさず平気でトイレ行くその神経がうんこだつってんの」
「ごめんてば」
「もう歩いてちゃ間に合わないからタクシー捕まえるよ。主催が遅れるとかまじうんこだからね」
「あんたうんこうんこ言い過ぎ…」
下品で申し訳ない。ただアラサーの女オタクの語彙力なんて小2男子レベルだから。だいたいみんなそうだから。
うんこちんこで2時間爆笑してるから。
幻想は捨てろ、世の男たち。
「スタジオプーティーまで」
「あいよー」
タクシー運転手のおじさんが、行き先を登録すると、到着予定時刻が9時55分と出た。
なんとかギリギリ間に合いそうだ。
「タクシーすぐ捕まってよかったね…」
「ほんと運良かった」
「ところでやべぇことって何よ」
「ああ…!!それ!!ね!!!」
柊子は興奮気味にスマホを取り出すと、メールボックスを開き、画面を私に突きつける。
「『Brilliant☆Produceニューシングル「Brilliant☆DREAM」リリースイベントに当選いたしました…、つきましては下記日程場所にてご案内させて頂きます…』…え!!!あのクソ倍率の高いリリイベ当てたの!!!!!」
「そう!!!!!」
「あんた死ぬんじゃない!?!?」
「死んでもいいよ!!!!葉月に会える!!のりたん(中の人)に会える!!!!!!」
「うわ〜おめでとう…私は当たり前のようにご用意されなかったけど…」
「何言ってんの、輝穂も行くんだよ」
「へ!?」
「ふっふっふ…優秀な柊子様はちゃ〜んと二枠応募していたのだよ…!いい友を持ったな!!!!ありがたく思え!!!」
イベントの参加キャストはソロ衣装の実装組4人。ブリプロ一の人気を誇る 御門瑠都(CV櫻木杏太郎)、同じく人気上位の安祥みさお(CV田中良弥)、柊子の推しである橋本葉月(CV大庭秋紀)、そして私の推し九ノ瀬奏多(CV小鷹礼人)つまり…推しに、会える。リリイベは握手会付き…推しの半径1メートル以内に…足を踏み入れると言うのか…!
「おぼろろろろろろろろろrrr」
「輝穂ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ねぇちゃん大丈夫かぁぁぁあ!!酔ったかい!!ごめんよおっちゃん運転荒かったかな!?!?」
「すいま…せ…、運転手さんは…わる…く…な…おぼろろろろろろろろろ」
「輝穂おおおおおおおお!!!!!」
「ねえちゃん!!!!!!!!もうすぐだ!!!もうすぐ着くからなぁ!!!!!」
推しに…顔を…見られてしまう…。
「ねぇちゃん…本当に吐いたわけじゃなかったんだな…」
「はい、あれば心のゲロです」
「心の…?」
「すいませんこいつ頭おかしいんでまともに聞かないでください」
「まぁ落ち着いてよかったよ、1200円ね」
「はい、ちょうどです」
「あんがとね、ほいじゃ」
ブロロロロロ…
ポカンッ
「いでっ」
「よその車で心のゲロ吐くな!」
「だって!!!!あや…あや…」
「礼人に会えるから???あんたいい加減推しの名前くらい口から出せるように耐性つけなよ」
「無理だよこんなクソアラサーオタクの不浄の口から神聖な神の子の名を呼べるわけが…」
「クソアラサーオタクとかいう暴言私も巻き込むからやめてくんない?」
「逆になんであんたは平気で呼べんの!?」
「だってのりたんはのりたんだし」
「見た目に自信のある奴は強いねぇ」
「いやそれ関係ないから。名前呼べないならあだ名で呼べば?礼人他キャストにあややとか呼ばれてんじゃん」
「あや……あ…や…あ…あ…あ…」
「カオナシかお前」
「うわぁぁぁぁ無理だぁぁぁ!!!」
「てかそろそろ時間だからエントランス行くよ」
「うわぁぁぁぁ!!!」
「おら、キリキリ歩け!!!」
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